出版社内容情報
独り身のまま死んでいった戦没者への鎮魂の思いをこめた表題作など87歳で書かれた短篇三作、初めての詩三篇を収めた最後の作品集。
若き戦死者への鎮魂の思いがこめられた現代日本文学の開拓者による最後の作品集。大阪大空襲で生家が焼けたことも知らず、終戦から半年後に復員してきた兄。混みあった電車のなかで、「君、結婚は?」と声をかけてきた兄の友人は、すでに戦死していた。誰にも言うなよと言って聞かされたその話を、語っておきたい――。若き戦没者たちを哀しむ表題作など八十七歳で書かれた三つの短篇に、詩三篇、日記を付す。
内容説明
現代日本文学を切り拓いた作家の最後の作品集。七十年間、誰にも話さずにきた不思議な話―。独り身のまま戦死した兄の友人をめぐる表題作など八十七歳で書かれた三作に、初めての詩三篇、日記を付す。
目次
好き嫌い
歌の声
考えられないこと
詩 三篇
日記
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
野のこ
36
箱入りでした。素敵。装丁のワインレッドがぴったりマッチしたイメージの書物。静かだけどその格はまだぐずぐずと熱を感じる。不思議な感覚の物語や詩「歌の声」は文化的でした。日記もあり、「女は潔くなければならない」があとをひきました。くすりとなるところもあった。全体の雰囲気だけで私にはよくわからない箇所もありましたが、構成に品格を感じる、上品な一冊2017/09/28
冬木楼 fuyukirou
15
河野多恵子たぶん初読み。空襲の話とか出てくるので、え?、え?、と思ったら、私の母より年上の方でした。人生の先輩の昔語りを聞いている感じ。淡々としてあんまりおもしろい物語でもなかったけど、何かの時に急に場面が脳裏に現れそうな不思議な感覚があった。2018/06/18
ぱせり
15
むき出しの感情も、そのときどきの感覚や思いなども書かれているのに、それらの感情がとても静かに推移していくように感じた。後年になっての冷静な振り返りでもあるのだろうけれど。そして、冷静であればあるほどに、その核のところにある火のようなものを意識する。河野さんのことは、やはり印象的だ。語らなかった理由にも今語る理由にも、相手への誠実さや敬意を感じる。2015/12/12
あ げ こ
12
淡々と、静かに話し。考えられぬような不可思議な余韻を残して、河野多惠子はいなくなってしまった。今はただ、ぽかんと空いている。静けさの中にただ、不可思議な痕跡だけがある。自分はその痕跡を、なぞり続けるように思う。河野多惠子の執拗さを愛する為に。平板な時間の内の、些細な一点を。唐突に、脈絡なく拘り、克明に記す、あの不可解で官能的な執拗さを愛する為に。または、河野多惠子の言葉の、怖さを愛する為に。密やかな異常を捉えてなお、硬く、白々と、どこまでも端正であり続ける事で、凄みを帯びる言葉の。あの怖さを愛する為に。2017/06/12
退院した雨巫女。
11
《私-図書館》【再読】←2022年5月とても読みやすかった。2015/10/19