出版社内容情報
人は満ち潮どきに生れ、引き潮どきに逝く――。三島、谷崎、兄、父母、伯母。いまは亡き面影を辿り、生と死の綾なす人間模様を描きだす珠玉の短篇集。
内容説明
NY暮らしのなか、ふいに甦る亡き異母妹の言葉と、濃やかに気遣ってくれた継母のこと―。(「いのち贈られ」)。マンションという日常空間に潜む闇。(「その部屋」)。語られぬまま過ぎてゆく夫婦の時間。(「異国にて」「緋」)。先に逝った人々の面影を辿り、生と死の綾なす人間模様を浮き彫りにする表題作。(「逆事」)。人の世のミステリー。魅惑の河野ワールド。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ケルトリ
5
文体は読みやすかったが、何をしたい話なのかがよく分からない……毎度の如くエンタメ小説専門人間にはさっぱり……2020/07/28
キノシマ
4
過去はもちろん現在そのものであって、それを思い出とかアイデンティティーとか呼ぶんだろうけど、それでも何年もの時間を平気な顔して自由自在に行きつ戻りつされるとやっぱりとても感動的で、やられた!って思う。そういう意味では表題作が素晴らしいけど、「緋」がとても好きだ。主人公は泥棒に入られたことを何日も経てから夫に告げる。そのあとセックスをするんだけど、夫の(男の)乳首を全うに見たことないってお思いながら“見るわよ、見るわよ。見せなさいよ”と思うところがとてもいい。2014/03/18
あ げ こ
3
整然と組み立てられた言葉には、一切の無駄がなく、怜悧な美しさを感じる。平穏そのもののように見える日常空間に潜む闇。不意に訪れた不可解な感情の変化。流れ行く日々の中で埋もれずに残る記憶。夫婦の間に存在する、決して語られることのない時間について。淡々とした筆致でありながらも、時に執拗であるとさえ感じられるほど、細やかに描かれた生活の様相。人々が遭遇する奇妙な出来事の数々は、描かれる日常が穏やかなものであるほど、足早に過ぎ去って行く何気ないものであるほど、より妖しさを増し、ひどく官能的で、より不穏な印象を残す。2013/12/24
のりまき
2
不穏である。何か起きそうで起きなくて、思い出に巻き込まれて寂しい気持ちになっていたら急に現れるこの世の者でないもの。油断のできない小説だ。『緋』はとても官能的そしてやっぱり不穏である。2020/08/16
冬薔薇
2
ジョーン・フォンティンの映画は懐かしい。映画の話、家族の死、ニューヨークの暮らしの思い出、と続くうち小説なのか作家自身のことなのかと迷いながら読む。人の死亡時刻は引き潮の時と言われるが、「択びすぎた作家」三島由紀夫は満ち潮の絶頂に亡くなるとのページは興味深い。2012/01/11