出版社内容情報
昭和21年早春、満洲の黒河で極東赤軍の捕虜となった小松修吉は、ハバロフスクの捕虜収容所に移送される。脱走に失敗した元軍医・入江一郎の手記をまとめるよう命じられた小松は、若き日のレーニンの手紙を入江から秘かに手に入れる。それは、レーニンの裏切りと革命の堕落を明らかにする、爆弾のような手紙だった……。
内容説明
昭和二十一年早春、満洲の黒河で極東赤軍の捕虜となった小松修吉は、ハバロフスクの捕虜収容所に移送される。脱走に失敗した元軍医・入江一郎の手記をまとめるよう命じられた小松は、若き日のレーニンの手紙を入江から秘かに手に入れる。それは、レーニンの裏切りと革命の堕落を明らかにする、爆弾のような手紙だった…。『吉里吉里人』に比肩する面白さ、最後の長編小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
財布にジャック
62
井上さん初読みなのに、遺作というのが残念です。この表紙のようなシベリア抑留の辛い生活を描いた物なのかと思い読み始めたのですが、何と吃驚そういう内容がメインではなくて、コミカルなタッチでとても読みやすかったです。捕虜収容所からの脱走や日本でのスパイ活動やレーニンの秘密、二転三転するソビエト相手に主人公が繰り広げる頭脳戦といったようなハリウッド映画も顔負けな展開でした。しかし、このラストだけは・・・取り残されたような気分で、正直驚かされました。2011/06/09
優希
49
シベリアに抑留された日本人捕虜の1週間の話。明るい内容で冒険譚のような流れで読みやすかったです。最後があっけなかったのが残念ですが。2025/09/14
藤枝梅安
41
小松修吉は東京外語でロシア語を専攻し、共産党の運動員として活動していたが、党に潜入したスパイにより立場を失い、兵役に取られ、満州で終戦を迎え、ハバロフスクの収容所に入れられる。その後、「日本新聞社」で働くようになる。小松は元軍医・入江一郎の手記をまとめる仕事を命ぜられ、入江を取材するが、そこでとんでもない物を託されてしまう。饒舌な文体で、面白おかしく読ませつつ、ソ連軍と日本軍の裏取引やそれぞれの軍上層部の腐敗を鋭く描いている。結末はあっけない気もするが、「全てが茶番」と達観する筆者の笑い顔が目に浮かぶ。2010/10/14
そうたそ
28
★★☆☆☆ 参考文献の多さからも、作品への手の込みようがわかる。シベリア抑留の悲惨な現実がひしひしと伝わってくる。最初はなかなかとっつきにくい。ただ物語のテンポがつかめれば、後は流れに乗って読み進めるのみ。会話で読ませるという魅力が感じられるあたり、劇作家の井上さんならでは。残念なのは、遺作となった作品であるために加筆修正がおこなわれなかったこと。井上さんからすると、この状態で刊行することは無念だったかもしれない。ラストにも物足りなさを感じただけに。それだけにこの作品の完成形が見たかったのも正直な気持ち。2013/12/31
キムチ
18
主人公は小松修吉。筆者と経歴は違えども、語り口から何やら井上氏の分身を思わせる・・無論思想的にも。 小松は1946年4月、ハバロフスクの日本人向け新聞「日本新聞社」の出版部員である。小説は切り取った一週間を濃密に、歴史の総体ともいえる感覚で綴っている。 わずか前まで広大なユーラシア大陸の少数民族解放区はロシア・中国が進出し、更に欧米列強・日本も加わっての争奪戦の現場であった。つまりシベリア・満州のドラマである。 スターリン・レーニンと続く赤の歴史に小国日本の共産党の歴史を絡め、修吉が呟いて行く。2013/05/03