内容説明
長年連れ添った妻に先立たれ、自らも病に侵された老人サムは、暖かい子供たちの思いやりに感謝しながらも一人で余生を生き抜こうとする。妻の死後、どこからともなく現れた白い犬と寄り添うようにして。犬は、サム以外の人間の前にはなかなか姿を見せず、声も立てない―真実の愛の姿を美しく爽やかに描いて、痛いほどの感動を与える大人の童話。
1 ~ 2件/全2件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
のっち♬
184
妻に先立たれた老人サムはどこからともなく現れた奇妙な白い犬を相手に余生を生き抜く。そこに確かな意味を見出せるのは不器用ながら誠実一路な人生を過ごしてきた自負によるものだろう。地に足のついたその歩みは、説教師も辟易するスロースピードでギアチェンジもブレーキもなしに悠然とドライブする場面などに象徴されている。「いずれお前たちも白い犬を見るようになる」—これこそ「わたしの流儀」でワルツを踊り切る人間だからこそ言える台詞。あらゆることに形式化を求める現代社会において、彼の予言は疑問形に傾きつつあると言えそうだ。2021/07/01
新地学@児童書病発動中
146
深く愛していた妻が死んでしまった後に白い犬が見えるようになった老人サムの物語。物語全体に優しい情感が流れていて、それに浸りながらページを捲った。ジョン・デンバーの曲がBGMに似合うと思う。サムの人物造形が素晴らしい。寡黙で実直で妻だけを一途に愛する男。サムにしか見えなかった犬が、次第にサムの家族や他の人に見えるようになるのは、何を意味しているのだろうか。回想のシーンが美しく描かれていて、サムが死んだ妻のコウラと会話する部分は特に胸に迫る。これからも繰り返し読みたいと感じる物語だった。2016/05/15
優希
113
じんわりとくる良さがありました。老いが美しく爽やかで心地よいです。孫たちのあたたかさに感謝しつつも一人で余生を過ごそうとするのは切ないですが、そこにはどこからともなくやってきた白い犬が寄り添う優しさもありました。それは妻の死後に訪れた幸せな愛の時間なのかもしれません。他の人の前に姿を見せもしなければ、声も立てない。そんな不思議な存在の白い犬ですが、そんな犬が見えて穏やかな時間が過ごせれば、それだけでいい、そう思わされるような物語でした。2016/11/01
ケイ
109
親しい家族が老いていくのを見るのはつらい。老いていく本人は、自分が頼りなくなっていることをわかっているようで、自覚していないようで、でも何となく不安なのだ。周りが自分を見つめる不安そうな様子が、彼をさらに不安にさせもするし、そんなことは杞憂だと腹を立てさせたりもする。これは、いい意味でのアメリカ南部の物語だ。大家族、黒人と白人の関係、気難しい人々、妻と夫の関係。そして、取りようによっては背筋がゾクッとするような幻想的な出来事。慈しみ合う老夫婦の話はどこの国のものでも変わりなく胸を打つ。2015/01/25
Kajitt22
98
老境に達した人生、最後の数年をアイロニーとユーモア、それでも背筋を伸ばして生ききった主人公に魅力と羨望を感じた。私もこのように死を迎えることができるだろうか。このところ休日は2年半前から飼い始めた一匹の犬を連れて、家族で食事や旅行を楽しんでいるので、この白い犬にも親近感を感じたが、こちらの白い犬はより自由で、神々しく幻の如く描かれていて、まさにこの物語を良質な大人のファンタジーにしていると思う。2021/12/03