内容説明
六十歳を前に、離婚して静かに人生の結末を迎えようとブルックリンに帰ってきた主人公ネイサン。わが身を振り返り「人間愚行の書」を書く事を思いついたが、街の古本屋で甥のトムと再会してから思いもかけない冒険と幸福な出来事が起こり始める。そして一人の女性と出会って…物語の名手がニューヨークに生きる人間の悲喜劇を温かくウィットに富んだ文章で描いた家族再生の物語。
著者等紹介
オースター,ポール[オースター,ポール] [Auster,Paul]
1947年生れ。コロンビア大学卒業後、数年間各国を放浪する。’70年代は主に詩や評論、翻訳に創作意欲を注いできたが、’85年から’86年にかけて、『ガラスの街』『幽霊たち』『鍵のかかった部屋』の、いわゆる「ニューヨーク三部作」を発表し、一躍現代アメリカ文学の旗手として脚光を浴びた
柴田元幸[シバタモトユキ]
1954年、東京生れ。米文学者・東京大学名誉教授。翻訳家。アメリカ文学専攻。『生半可な學者』で講談社エッセイ賞受賞。『アメリカン・ナルシス』でサントリー学芸賞受賞。トマス・ピンチョン著『メイスン&ディクスン』で日本翻訳文化賞受賞。アメリカ現代作家を精力的に翻訳するほか、著書多数。文芸誌「Monkey」の責任編集を務める(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
はっせー
162
9.11前の古き良きアメリカを感じれる本になっている!ポール・オースターさんの本は以前『ムーンパレス』を読んだことがあった。そのためこの本も面白いだろうと思い読んでみた。予想通り最高だった!主人公ネイサンはガンになり妻にも捨てられ娘ともうまくいっていない。ネイサンからみた世界はまるでモノクロにしか見えなかっただろう。そんなネイサンさんが偶然甥っ子と再開する。そこから物語の歯車が動き出す。どんなに年を取ってもやり直せる。そんな気がしてならない作品。人生を愛せよ。ただ人生を信頼してはダメだ。この言葉が染みる!2022/01/19
ケイ
138
この話の時期、アメリカに住んでいて(登場するI-95をずっと南に行ったところ)、大統領選がもつれているのをフロリダの州都タラハッシーまで見に行ったことがある(ちなみにあの抗議は随分と牧歌的だった)。だから、ええっ、このまま進んじゃうと…と思ってると案の定。ブルックリンが舞台で、色んなものがごちゃごちゃしてて、作者らしくない感じ。主人公の名前がグラス氏だとわかってようやく確かにオースター作品かもと思えた。それに、貫くメッセージが、どこか追悼のようにも感じられて…。オースターは再生について紡いだのかも、ね。2020/09/29
ずっきん
93
ガンを患い、助かったものの、死に場所を求めてブルックリンへと還ってきたネイサン・グラス。甥のトム、古本屋のゲイ、ハリー、喋らないルーシー。彼が周囲の人々を『愚行の書』として、生き生きとユーモラスに綴っていく。それはまぎれもなく、ネイサン自身の再生の物語でもある。他人からしてみれば、たとえチンケな事であろうともドラマがあるのだ。人生は素晴らしく、そしてままならない。この上なく深く青い青空を、ネイサンと一緒に見上げる。本当に深く沁みる青だ。美しさこの上ないその青から視点を外せない。至福の読書。2020/11/03
ばう
77
★★★ 初P.オースター作品。60歳を目前にして離婚し、仕事も辞め、住む家も売ってブルックリンに戻ってきたネイサンは自分の人生を振り返り「愚行の書」の執筆を思いつく。しかし人生の最終章に入ったかに見えた彼の人生が甥のトムと偶然再会してから思わぬ方向に進んでいく。無味乾燥に見えた毎日がこんなにもスリルとロマンスに満ちたものになるとは。どんどん進んでいく話惹きつけられてほぼ一気読み。まさに都会に住むお大人のおとぎ話のようなお話でした。2022/10/20
けろりん
70
【第167回海外作品読書会】人は生まれ落ちた瞬間からそれぞれの人生の終焉へと向かう旅路を歩んでいる。ある程度の年齢になれば、それは動かし難い現実として意識される。この物語の語り手、ネイサンは60歳手前。辣腕の仕事人間、家庭人としては失格。大病を患い、退職、離婚。一人暮らしの無聊をかこち『人間の愚行の書』を執筆中。音信不通であった、甥のトムとの再会から生じる出来事が、彼の人生に炉端の火灯りに似た色彩りを点す。素敵に晴れた初秋の朝、まばゆい青空の下で終わるこの物語の余韻に浸りつつ、その先が気になってならない。2020/10/25