内容説明
私立探偵ブルーは奇妙な依頼を受けた。変装した男ホワイトから、ブラックを見張るように、と。真向いの部屋から、ブルーは見張り続ける。だが、ブラックの日常に何の変化もない。彼は、ただ毎日何かを書き、読んでいるだけなのだ。ブルーは空想の世界に彷徨う。ブラックの正体やホワイトの目的を推理して。次第に、不安と焦燥と疑惑に駆られるブルー…。’80年代アメリカ文学の代表的作品!
著者等紹介
オースター,ポール[オースター,ポール] [Auster,Paul]
1947年生れ。コロンビア大学卒業後、数年間各国を放浪する。’70年代は主に詩や評論、翻訳に創作意欲を注いできたが、’85年から’86年にかけて、『ガラスの街』『幽霊たち』『鍵のかかった部屋』の、いわゆる「ニューヨーク三部作」を発表し、一躍現代アメリカ文学の旗手として脚光を浴びた
柴田元幸[シバタモトユキ]
1954年、東京生れ。東京大学教授。翻訳家。アメリカ文学専攻。『生半可な學者』で講談社エッセイ賞受賞。『アメリカン・ナルシス』でサントリー学芸賞受賞。トマス・ピンチョン著『メイスン#ディクスン』で日本翻訳文化賞受賞。アメリカ現代作家を精力的に翻訳する(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
409
この作品は、端的に言うならば、アイデンティティ・クライシスを描いているのであり、その限りにおいて、テーマそのものは20世紀的である。そのことは、ブルーが自らを形成したブルックリンのさまざまなモニュメントを度々回想することにも現れている。主人公ブルーは図らずも、行動ではなく思索と想像することとを余儀なくされる。最初それは相手との関係性にはじまるものの、やがては自らの存在理由そのものに及ばざるを得なくなる。そうした自己撞着の網の目から紡ぎだされたものが、ここに描かれた実に特異な物語世界なのだろう。2012/07/27
zero1
262
これは哲学?目の前にある世界は鏡?それとも本物?自分以外は演劇?探偵ブルーはホワイトの依頼で謎の男ブラックを見張ることに。向かいのアパートから監視するがヒマで思索に耽る。文章は無機質、簡潔で原文は多くが現在形で書かれているという。登場人物は色で表現。「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」(村上春樹)や「黒子のバスケ」(藤巻忠俊)に影響をもたらした?読んで「退屈」と思うか、「面白い!」と感心するか。試されているのはブルーではなく読者?NY三部作のひとつ。翻訳は東大名誉教授の柴田元幸。2019/02/24
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
186
ニューヨーク三部作2作目。「まずはじめにブルーがいる。次にホワイトがいて、それからブラックがいて、そもそものはじまりの前にはブラウンがいる。」なんともオースターらしいシンプルで謎めいた導入。1作目の「ガラスの街」とやはり共通する点が多い。 自分の拠点を奪われることでの自己の喪失。親しい人たちに死んだ、或いはそれに近しいものとみなされ都会に身一つで放り出される孤独と無力感。都会に暮らす上で無意識に潜む虚無感とそれに対する恐れを眼前に引きずり出すような。 何も解決せず終わる感じとか文章の美しさとか、好きです。2019/01/20
のっち♬
176
ニューヨーク三部作2作目。私立探偵ブルーはとある男を監視するよう依頼される。何も起こらない時間の中、主人公がひたすら回想を巡らせる前半からアイデンティティに対する様々な問い掛けが散りばめられており、必然的に思考の本質へ切り込むアプローチの純度と抽象度の高さが本作の特徴だろう。著者にとっての思考と書物の密接な関係がここに垣間見れる。終盤は存在の相対化と共にストーリーは加速、何もないところから刺激を生み出す彼の面目躍如ともいうべき作風。物語は具体性を伴って完結する、それはメタ構造のように次の物語の一部となる。2021/11/18
藤月はな(灯れ松明の火)
142
ポール・オースター版『燃え尽きた地図』とも言える作品。登場人物の名称が『レボドア・ドックズ』を彷彿とさせるが、『レボドア』と違い、登場人物の個性がスルリとすり抜けていってしまうので読み始めは苦労しました。それは誰にもなれて、誰にでもなれない都会に住む匿名性と他者によって変容して役割を演じられる人の虚ろさを暗示していたのだろう。それにしても氷漬けになった遺体については『さざなみ』以外でも何かの映画でも聞いたことがあるような…。そして紹介されていたロバート・ミッチャム主演の『過去からの脱出』は是非とも観たい。2017/07/12