内容説明
ボンベイの連続娼婦殺人は、ファルークも知る美しい女装者の仕業らしい。性転換後に名前を変えた彼女の正体にようやく思い当たったファルークらは、犯人逮捕のために大芝居を打つ。ジョン・Dの生き別れの双子マーティン、元ヒッピー娘、少女売春婦に乞食少年、そしてサーカスの小人たち…強烈な個性の登場人物らが曼荼羅のごとく組み上げる、猥雑で奇怪な魅力に満ちた長編小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
田中
30
大長編を読んだ満足感はある。確かに面白いが、アーヴィングの物語は、もっと楽しいはずだし、個人的にはいつものように涙腺がゆるまなかった。でも、著者の得意とする異端者を集結させて、あっちこっちに揺さぶる活劇は、軽妙な愉快さで飽きずに読める。無秩序な熱気につつまれたインド大衆を背景に、精神的にどこの地にも同化できないマイノリティーの医者と、肉体的に男だけど女に転換した猟奇者。倒錯した世界の喧噪さは、暴力と宗教対立があり破滅的だ。混沌としたインド社会では、登場人物たちの様相が際だってユニークに映るのだ。 2021/11/18
tom
22
敬愛する岸本佐和子さんの翻訳と知ってしまったら読まなきゃならないと。長大過ぎるけれど、下巻に入ってからは、ほとんど一気呵成の勢いで読み進める。場所はインドのベンガル付近。主人公はインド人だけどカナダで育った整形医者、自分の居場所の不確かさを内心に抱えている。そういう彼が、インド滞在中に奇妙な殺人事件に巻き込まれてしまった。そこから物語られる一週間か二週間ほどの物語。物語がひとしきり終わり、その数年後の彼の語りが秀逸。いかにもアービングという感じがする。2022/09/24
ソングライン
21
今は女性となりドガ―婦人となった因縁の連続殺人犯ウルフ、脚本家を副業にもつ医師ファルークが、双子の一人俳優のダー、刑事パテルとその妻ナンシーとともにウルフと対決する下巻です。さらに、双子のもう一人マーティンが神父になるためボンベイにやってくると、娼婦の少女マドゥと片足を像に踏まれ障害を負った物乞いの少年ガネーシャを困窮の生活から救うため奔走します。ウルフとの因縁を断ち切ったファルークは身分差別の無くならない故郷と、移民としての差別を受けるトロント、安住の地とは何かと思いを馳せます。2022/01/03
雨月化鳥
9
面白かったな。 『おじさんは、サーカスの人だよ』 登場人物に親しみを感じ過ぎて いつまでも終わらないでと思った。私の中ではまだ物語が続いている。 2014/02/12
mawaji
6
破天荒な登場人物たちによって繰り広げられる混沌とした物語はいろいろな伏線が絡み合って,訳者あとがきにあるように「小説全体が一つの巧緻な曼荼羅といった様相を呈している」ようです。トロントのインド人として「移民は死ぬまで移民」と思い続けて居心地の悪さを感じていたファールクですが、振り返ってみればダックワース・クラブや小人たちのリサーチをしていたサーカス、「ドクター・ボールズ」としてボランティアで働いたエイズ・ホスピスなど、心穏やかに帰属できる場所は意外と身近にあったのですね。まさにJ.I.っていう読後感。2013/12/27
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