出版社内容情報
ポール・ギャリコ[ギャリコ,P (ポール)]
著・文・その他
内容説明
大沼のそばの燈台小屋に住む画家のラヤダーは、野生の鳥たちだけを友だちにひとりっきりで暮らしていた。ある日傷ついた白いグースを抱いた少女が燈台を訪れて…。孤独な男と少女のひそやかな心の交流を描いた表題作ほか、動物への暖かな眼差しで描かれた「小さな奇蹟」「ルドミーラ」の二篇を収録。『ジェニィ』『雪のひとひら』のギャリコが贈る、永遠に愛されるファンタジーの名作。
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- 評価
なんとなく本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
227
表題作をはじめ3つの短篇から成る作品集。いずれも、孤独な境遇に置かれた人間と動物の物語。動物との結びつきの強さからすれば、表題作の「スノーグース」に極まる。この作品はエセックスで展開するが、灰色の北の海を背景にスノーグースの白のモノトーンとの調和が美しい。そんな風に、いずれの作品もその土地固有の風土と深く結びついている。土地との密着度では「小さな奇跡」が一番だろう。アッシジの街と聖フランチェスコ、そしてローマへの巡礼行が連鎖的な奇跡を呼び起こす。好みにもよるが、感動的という点では私はこの作品を推したい。2013/07/26
やすらぎ
200
1930年の春遅く、変わり者と言われ、心が荒れた人間社会から自ら離れ、純粋な鳥たちと過ごすことを選んだラヤダー。その湿原に、怪我をしたスノーグースを助けたいフリスが訪れる。そこから始まる勇敢な物語。…人間は常に争い続けているが、そんな時代でも自然や鳥と心を通わせる必要性を感じる。鳥もその優しさに感謝し、絶対の愛の印を残してくれる。…波間の小舟は見えなくなっていた。燃え上がる空に輪を描き、西へ飛び去っていく救いの雁。そして、絵を抱きしめながら恋しく待ちわびるもの。さようなら、愛しいひと。引潮の燈台を眺めて。2021/07/23
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
183
重く暗い雲を切って進むにはあまりにも華奢なしろいからだ。その儚さで矢のように天空を走っていく悲しいような美しいものを見て、立ち尽くすことしかできなかった。そんな愚かさをも、きっと貴方はまた赦すのでしょう。その気高い精神の美しさを、どうしてか上辺の醜さで見抜くことができなかった。しかしそんな悪意をものともせずに、信じるものに殉じた貴方。そんな貴方が誇りに思うような私に、なってふたたび会いたいと、思う。冷たくくらい向かい風にも胸を張って、胸張り裂けるまで走って、飛ぶ。いつかきっと私も。2020/01/26
しいたけ
145
奇蹟を物語る3篇。醜き者と傷ついた生き物、小さき者と年老いた生き物。これらにもたらされた奇蹟を、私は信じる。哀しみの多い人間の暮らしを、少し離れて見ているしかない神様。ほんの一瞬の邂逅に、そっと手を差しのべる悪戯があってもいいではないか。生きとし生けるものに等しく与えられるのは終わりがあるということ。見送った命に、小さき者たちもいつか必ず追いつくときがくる。だからこそ大事に抱きしめたい。この温かな色を持つ奇蹟を。2017/12/22
Tetchy
142
収録作3編は片田舎に孤独に暮らす1人に焦点を当て、いずれも動物と人間との触れあいによって起こる奇蹟が描かれているのが共通点。但し奇蹟が起きるからといってハッピーエンドになるのではない。ギャリコは決してお伽噺のような奇蹟を書かず、主人公に都合のいい結末を用意していない。あくまで現実的に物事を捉え、主人公に突きつける。だからこそ彼の童話は子供だけでなく、大人にこそ読んでほしい。大人だからこそ登場人物たちが内包する心の機微が判り、そして深く胸に刺さる。彼の人の見つめる眼差しの深さを思い知らされた短編集であった。2025/02/21
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