内容説明
あの血みどろの逃亡劇から7年―。FBI特別捜査官となったクラリスは、麻薬組織との銃撃戦をめぐって司法省やマスコミから糾弾され、窮地に立たされる。そこに届いた藤色の封筒。しなやかな手書きの文字は、追伸にこう記していた。「いまも羊たちの悲鳴が聞こえるかどうか、それを教えたまえ」…。だが、欧州で安穏な生活を送るこの差出人には、仮借なき復讐の策謀が迫っていた。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
449
『羊たちの沈黙』から7年後。ハンニバルは移送中の刑吏らを殺害して逃走。未だ行方知れず。一方、クラリスはマスコミから麻薬組織との銃撃戦の責任を問われたばかりか、FBI当局からも組織とは相容れず孤立している。本書では、これにハンニバルへの復讐に燃えるメイソン、フィレンツェ警察のパッツィが絡むのだが、ハンニバルとクラリスとが交錯することがないために、今のところは前作で見られた息詰まるようなスリリングな展開は見られない。この巻の読みどころは、ルネサンス都市フィレンツェでのハンニバルとパッツィらとの攻防だろう。2021/11/18
こーた
248
『羊たちの沈黙』から七年。ひさしぶりの再会である。いや、立てつづけに読んでるから、一気に時が流れたと云うべきか。クラリスは訓練生から一端の捜査官となり、解き放たれた怪物は美の都で自由を謳歌している。バッファロウ・ビルとの対決で出世したのかと思いきや、あれがケチのつきはじめで、いまや窮地に立たされたクラリス。怪物の愛と、もうひとりの狂人の執念が救いの手をさしのべる?過去へ遡り、資料を読み漁って博士を追跡するようすに期待はふくらむ。が!クラリス後半全然出てこないじゃん!博士、はやくアメリカへ還ってきてくれ〜!2020/07/09
のっち♬
141
レクターシリーズ第3作。前作から7年後。窮地に立たされたクラリスに届いた手紙を皮切りにレクター狩りが開幕。上巻は警察官・誘拐屋との攻防が中心で、読者に出来レースを予期させつつ裏で糸を引くサディストを含めた思惑の交錯で牽引する。プロファリングと一線を画した進行は新鮮味があり、命の駆け引きでの効果的な場面・話法転換に紛れてレクターの造形やウィットやメタファーを盛る余裕に円熟味を感じる。心理学や芸術論はブランクをものともしないし、フィレンツェの歴史・風土と融合させた残忍な処刑法は象徴性と視覚面の相乗効果で劇的。2023/07/04
修一郎
95
教養溢れるモンスターレクター博士とフィレンツェは誠に相性がよろしい。建造物もさることながら,その食通ぶりが特に。レクター博士を捕まえて稼いでやろうというワルモノがメディチ家ライバルの末裔だったりと歴史の蘊蓄もたっぷり。もちろん豚食わせだったり内臓ぶちまけだったりの猟奇的シーンはおぞましいのだけれども,レクター氏の怪物紳士ぶりを如何なく発揮した上巻だったのでは。映像では随分と上品に作られていたんだなぁと。。下巻へ・・2016/05/20
アナーキー靴下
86
『羊たちの沈黙』巻末解説に煽られ、クラリスとレクター博士の顛末が気になり手に取る。上巻は二人の直接対決はなく、それぞれの物語…しかし互いに強い印象、他の誰かでは代替できない何かを秘めているようで、下巻が楽しみ。上巻でレクター博士を追うのはどいつもこいつも返り討ちにされても自業自得よね、な人物ばかりだけど、だからこそ人間味を感じて、妙に応援したくなる。レクター博士はまさに「シャイタン(悪魔)」で、人間なんか超越していてカッコいいしもっと見せつけて欲しいけど、人間も頑張って、みたいな。業の詰まった話だ。2022/04/18