出版社内容情報
1962年の暮、全世界は驚きと感動で、この小説に目をみはった。当時作者は中学校の田舎教師であったが、その文学的完成度はもちろん、ソ連社会の現実をも深く認識させるものであったからである。スターリン暗黒時代の悲惨きわまる強制収容所の一日を初めてリアルに、しかも時には温もりをこめて描き、酷寒(マローズ)に閉ざされていたソヴェト文学界にロシア文学の伝統をよみがえらせた芸術作品。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
355
表題通り、虜囚イワン・デニーソヴィチ(シューホフ)の1日を描き出したもの。それにしても旧ソ連時代のラーゲリというのは聞きしに勝るものだ。しかも、そこに送られる罪たるや、もうほとんどが気まぐれに押し付けられたようなものだ。小説は著者のソルジェーニツィンの体験に基づくものだが、彼自身が十数年のラーゲリ生活を送らされている。そこは氷点下30度にも達する酷寒の世界。そして、人間は何にでも慣れるし、人格もまたどこまでも卑小になれる存在なのだ。これは、極限状態に置かれた人間を描いた、スーパー・リアリズム文学だろう。2015/04/19
遥かなる想い
183
スターリン時代のラーゲリを舞台にした物語である。 収容所での単調な一日を 淡々と描く。 異常な状況下で 普通の人々が 黙々と生きる… 著者が身を持って体験した ラーゲリーの 実態を 後世に残す、貴重な作品だった。2019/03/23
夜間飛行
161
ペーチカを作らなければ凍死するという極寒の作業場で、煙草一巻やスープ一杯、ノコギリの破片を得るのに知恵を絞り、ひたすら生き延びようとする主人公の日常が淡々と描かれる。時に助け合いながら、生存競争に耐え抜いていく人間の姿に輝かしいものを感じた。一方、妻からの便りで知るコルホーズの変化や、絨毯作りによる割のいい新生活などが絵空事のように浮いて見える。《ラーゲルでは日数の絶つのが早いが、刑期そのものはいっこうに減らない》…待つことは祈りに似てくるのだろうか。基督を信じる人も凄いが、行為の中に基督がいる人も凄い。2017/06/18
mura_ユル活動
141
作者ソルジェニーツィンは1970年ノーベル文学賞受賞者。酷寒(マローズ)のラーゲル(強制収容所)。人が暮らすための最低の場所、寒さが伝わる。何かあれば営倉にぶち込まれる。厳しい食事のシーンも目に浮かぶよう。悪い班長に当たれば棺桶で眠ることになる。収容されている人は色々な方たちで多彩。この小説のすべてが1日であることが、先の見えない、かつ、終わることない刑期の長さを感じさせている。一日何も起こらなかった幸運を感じて終わる。私のようにロシアの時代背景がわからない人は、巻末の解説を先に読んだ方が良いだろう。2020/01/07
まふ
140
ロシア文学特有の冗長さもなく簡潔に作者の伝えたい世界が描かれており、見事である。巨悪人スターリンの時代の強制収容所(ラーゲリ)には様々な人々が収容されており、零下30度の極寒の冬を何度も乗り切って生きているひとびとはだれもたくましい。モルタル積みの作業を行う主人公たちの104班が「生き生きと」作業をする姿が強く印象に残った。作品全体はスターリン独裁体制の「愚」を告発するものであるが、全体的にとことんの苦しみをさえ楽しむ心の余裕のある書きぶりでそれゆえに一層この作品とその問題の重みを感じた。G1000。2023/11/24