内容説明
私たちの愛が尽きたとき、残ったのはあなただけでした。彼にも私にも、そうでした―。中年の作家ベンドリクスと高級官吏の妻サラァの激しい恋が、始めと終りのある“情事”へと変貌したとき、“あなた”は出現した。“あなた”はいったい何者なのか。そして、二人の運命は…。絶妙の手法と構成を駆使して、不可思議な愛のパラドクスを描き、カトリック信仰の本質に迫る著者の代表作。
著者等紹介
グリーン,グレアム[グリーン,グレアム][Greene,Graham]
1904‐1991。イギリスの教育者の家庭に生れる。大学卒業後、カトリックの学生と結婚して改宗。ジャーナリストなどを経て、’29年処女長篇となる『内なる私』を発表。’40年、政治権力と宗教の対立を描いた『権力と栄光』で作家としての地位を築く。’51年に発表された『情事の終り』は彼の名声を全世界的なものとした
田中西二郎[タナカセイジロウ]
1907‐1979。東京生れ。東京商科大卒。出版社、文芸家協会等に勤務する一方、文芸評論家、翻訳家として活躍
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
129
表題の「情事」は、affairの訳語として選ばれたのだが、訳者「あとがき」によれば、それは「終りのあるもの」であるらしい。確かに「愛」と言ってしまえば、それは無限の大きさを持つものであろうし、有限ではない。とりわけ「神の愛」という時には。モーリスの愛は逆説的に「憎む」ことにおいてしか確認できないし、サラアの愛もまた徹底して現世的である。この小説は「愛」を語りながら、愛の不毛をこそ示唆するかのごときである。複数のナレーションが駆使されるが、小説が深化するほどに読者たる我々は「愛」を見失いそうになるのである。2013/06/09
kameyomi
17
これほど手強いとは思わなかった。訳も素晴らしいので、優れた文学である事は分かるのだが、作者の意図をどれだけ理解出来ているのか疑問だ。とにかく「神」が近すぎて。一番強く感じたのは、ヘンリが可哀想だという事。浅い。2024/09/18
Ryuko
14
再読。作家ベンドリクスが、かつて愛し合った人妻のサラァ。突然別れを告げられて、1年半が経ち、ベンドリクスは偶然会ったサラァの夫ヘンリからサラァについて相談を受ける。。「あり来りな堕落した人間の愛がほしゅうございます」と日記に綴りながら、カトリックへの改宗を望むサラァ。信仰と愛、神と人間を描いた作品。作中ヘンリー・ジェイムズ、モーム、E・M・フォースターの名前が出てきて興味深い。2015/06/20
色々甚平
10
[ガーディアン34]愛についてが大きなテーマになるのだが中でも信仰の神に対しての愛と人に対しての愛への追求の所は見応えがあった。その愛は同じであり、欲であると説く。それは精神的・物質的欲求であり、動物的欲求でもあるもの。そして、人は神を自分に似せて作っている段階で愛する対象になっていて、自分の理想とする見たい姿でしか見ないのだから、この上なく愛してしまうのだと。そして愛が幸福である絶対性はない。全体を通して、この会話シーンは非常に印象深いところであった。2018/05/14
Koki Miyachi
8
緻密につくられた構成と丁寧な情景描写。内面的な独白、現在から過去、日記の記述まで自在に往還する。主人公の作家モーリス・ベンドリクスの人妻サラァに対する愛と、嫉妬からくる憎しみ。愛憎相半ばする心理劇。サスペンス的で謎めいた展開。恋愛という普遍的なテーマを縦軸にしながら、宗教観、人間の愚かさと無力感が横軸に。そして全てのものはやがて無に還るという無常観が漂うエンディングが秀逸。2013/04/05