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本屋のカガヤの本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
のっち♬
126
差別や暴力を扱ったものが多く、ドライな筆致や非線形の語りなど著者らしさは顕在。『赤い葉』は最期まで生にしがみつく黒人の行動や食人の挿話に戦慄した。『エミリーに薔薇を』はサスペンス的な構成が効果的、彼女の頑なさや町の人々の揺れる心や視線に求心力がある。『あの夕陽』は黒人を理解しない白人の視点に絞ることで両者の溝を浮き彫りにしている。『バーベナの匂い』では真の勇気を提示する、著者も「自分がしようと思うこと」ができずに苦悩をなめていたのだろう。『納屋は燃える』は時折沈黙する独白が葛藤に複雑さと奥行きを与えている2021/01/17
ケイ
115
なんとなく3話目の『エミリーにバラを』を読み始めたら取り込まれた。どの話も哀しいのに悲劇とは違う。やりきれなさはあるが、c'est la vie. 人生なんてそんなもの。全てを読んだ後、解説は読みたくはない、自分だけの余韻に浸りたいと思った。いい作品だと感動したのではないが、ふとまた読んでしまうような短編たち。高慢な者は思い知らされる時が来る。むやみに人を頼るものではない。手にしたものは本当に確かなのか。彼の描く、少し不幸な人たちの中で、私はエミリーの深い愛に心打たれた。2014/12/17
buchipanda3
114
アメリカ南部を舞台にした作品集。ここのところ濃いめの小説を続けて読んだが、こちらも短編ながら濃厚でどれも面白く読めた。人間の利己的な一面が幾度も赤裸々に描き出される。俗悪、無慈悲、頑迷、その歪みにむわわと嫌悪に包まれながらも、物語として空虚と共に言いようのない悲壮美が残った。それは人種や階層(白人でも)の差異がもたらす疎外感のやるせなさを感じさせる当時の南部特有の情念からか。その強めの匂いの中を直向きに生きる人間を善悪余すことなく描く著者の文章にやられた。複数の作品で描かれたあの架空の町の長編も読みたい。2021/08/31
ペグ
90
再読。特に「乾燥の九月」「納屋は燃える」が心に残る。読みながら好きな監督アラン パーカーの「ミシシッピーバーニング」を思い出す。映画のファーストシーン〜トレヴァー ジョーンズの音はこれから起こるなんとも言えない不穏な空気を醸し出していて震えた事を思い出した。2017/12/23
ずっきん
88
『あの夕陽』のみ既読。坦々とした語り口ながら、どれもこれも腹に来る。南部の情景と匂い。あまりの無慈悲さ。郷愁の余韻。根底には怒りが見え隠れするが、これらが絡まり合い、美しいとすら感じてしまう。好きとか嫌いではなく没頭する。普段なら読後すぐの勢いですぐにレビューを書いてしまうんだが、書けなかった。嘆息混じりに幾度も「まいったな」とつぶやくばかり。特に『孫むすめ』の残す爪痕は凄まじかった。なんとカタルシスをも感じてしまうのだ。人も土地も慣習も善悪では語れない。泥にまみれた肌や暗闇は、光を際立たせるのだな。2022/03/12
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