内容説明
一軒の小さな家と農場を持ち、土地のくれるいちばんいいものを食い、ウサギを飼って静かに暮らす―からだも知恵も対照的なのっぽのレニーとちびのジョージ。渡り鳥のような二人の労働者の、ささやかな夢。カリフォルニアの農場を転々として働く男たちの友情、たくましい生命力、そして苛酷な現実と悲劇を、温かいヒューマニズムの眼差しで描いたスタインベックの永遠の名作。
著者等紹介
スタインベック,ジョン[スタインベック,ジョン] [Steinbeck,John]
1902‐1968。カリフォルニア州サリーナス出身。スタンフォード大学で海洋生物学などを学ぶかたわら、農場や商店で働き、創作をはじめた。代表作『怒りの葡萄』で1940年にピューリッツァー賞を受賞、’62年にはノーベル賞を受けた
大浦暁生[オオウラアキオ]
1931年生れ。東京大学卒業。中央大学名誉教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
575
これは涙なくして語れない小説だ。そうなってしまうことは、かなり早い段階から(あるいはむしろ物語の冒頭から)わかっているのだが、それでもやはり読み終えた時には滂沱の涙を禁じ得ない。私は不覚にも涙を流すことになった。本編は、小説でありながら極めて演劇的な作品である。まず、物語の始まりから終結までは、わずか一昼夜のことだ。にもかかわらず、ここにはジョージの、そしてレニーのそれまでの人生のすべてと、これからの未来までもが凝縮して描き出される。しかも、それはリアルな現実でありながら、同時に不条理劇でさえあるのだ。2015/07/01
のっち♬
203
世界恐慌時のカリフォルニアを舞台に、二人の季節労働者の悲劇が描かれる。対照的ながら気持ちの通じ合った彼らを中心に少数で個性的な登場人物や無駄のない展開、生き生きとした会話は戯曲的な質感。「だって、おれにはおめえがついてるし—」「おらにはおめえがついている」ラストシーンからは『約束のよろこび』が消え果てたジョージのやるせない気持ちや深い情がひしひしと伝わってくる。土臭く濃厚な世界観や虚飾のない自然描写、何より行動の説得力が圧倒的。障害、孤独、貧困など弱者を抑圧する社会に鋭い視線を投げかけた短くも濃密な一冊。2017/11/23
Miyoshi Hirotaka
166
弱者にとって生きることが厳しい大恐慌時代のカリフォルニア。頭が切れるジョージと巨漢で精神薄弱のレニーが多額の貯金をもつ片輪の老人キャンディと出会い、三人が希望を見出し始めた途端に小さな偶然から暗転する悲劇。長年連れ添った牧羊犬の銃殺、慈しむべきものをうっかり死なせてしまう歪んだ愛情の危うさ、無二の友をリンチから救うために銃殺する非情さなど死の使い方が効果的。その間にレニーが繰り返し語るウサギを飼いたいという無邪気な夢が悲劇を際立たせる。優勝劣敗の世界で、弱き者たちが共生していく難しさと危うさを描いた名作。2016/01/28
ケイ
144
冒頭から引き込まれて一気に読む。小さくて面倒見のいいジョージは、レニーを連れて、出稼ぎ労働をあちこちで続ける。レニーは大きく怪力の持ち主で、知能が少し劣っていても優しい働き者だ。ジョージは一人ならうまくやれるのに、レニーのせいでいつも面倒を引き受ける。ただ、それ以上にレニーの存在自体が彼の救いなのだ。彼らは中流以上にいたら幸せに暮らせたかもしれない。でも、貧しい流浪の出稼ぎ労働者に何ができるというのか。最悪の事を避けるために、悲惨な現実を引き受ける下層民の現実。しかし、ここには本物の強い愛が流れている。2015/06/04
アン
135
カリフォルニアの農場を舞台にした貧しい労働者たちの物語。大柄で力の強いレニーは悪意はなくても揉め事を起こすことから、ジョージが面倒を見ながら農場を渡り歩いて働き、2人は常に行動を共にしています。ささやかな甘い夢、気にかけ合う大切な話し相手、純粋さの中に潜む危うさ。彼らを取り巻く人々も虐げられた者が多く、厳しい現実と理不尽さ、理想を求めて幸せを掴む難しさが痛いほど伝わってきます。結末の悲劇は哀しくてやるせませんが、深い絆が胸に迫り、レニーが未来を夢見るように笑った声が、いつまでも響くようで忘れられません。 2021/09/26