内容説明
1921年、一人のアメリカ人青年がパリにやってきた。地位もなく名声もなく、ただ文学への志に燃えたアーネスト・ヘミングウェイという名の青年は、このパリ時代に「雨のなかの猫」「二つの心臓の大きな川」「殺し屋」など、珠玉の名編を次々に発表する。本書は、彼の文学の核心を成すこれらの初期作品31編を収録。ヘミングウェイの全短編を画期的な新訳で刊行する全3巻の第1巻。
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- 評価
本屋のカガヤの本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ちびbookworm
97
★4.5.2つの短編集の合本。無名の1920年代、パリ。若き著者が上梓した「われらの時代」が素晴らしい◆無駄を省いた、透き通る文体(村上春樹の文章を彷彿)◆美しい情景。一次体験のような、自然がそこにあるかのような静かな情景描写◆全体を貫く無骨なアウトドアライフ。浅薄と対極の、骨の髄まで沁みたそれ。恋人とボートを漕ぎ、釣りをし、サンドを頬張る。友人のログハウスでスコッチウィスキーに酩酊する。荒野の焚き火で、ハムの脂にパンを浸して食う。◆コロナ禍でアウトドアが注目される今こそ、再評価されて欲しい1冊。2022/06/20
藤月はな(灯れ松明の火)
73
目の前の出来事を感情を交えずに描きながらも読者の文章という客観から「見た」ことへの感情を静かに引き出す。このハードボイルド特有の硬質な文体は、ヘミングウェイが完成させていたのだ。「われらの時代」は章ごとの連作短編が挟まれていてそれが短篇集での軸になっているのは凄い構成だなと思います。「インディアンの村」の死生観への問い、「贈り物のカナリア」のラストで判明する残酷さにはハッとさせられました。しかし、ヘミングウェイの短編ではニックはロクな目に遭いません。2014/11/03
巨峰
71
冒頭の「インディアンの村」から強烈でした。ああ、彼はここから始まって最後には非業の自死を遂げるのだなと。大きな運命のつらなりを感じました。短編の選集を手にとったこともあるのですが、やはり、作者がその構成に神経を払ったオリジナルの短編集を読む方がより一編一編が生きると思います。物語の中だけでなく、登場人物の来し方行く末に思いを寄せてしまうまさに名編でした。作者20代の初期作品にして代表作と言っていいと思います。それにしても読了者が男ばっかりで笑ってしまったw2016/09/12
速読おやじ
68
ヘミングウェイは長編も好きだが、短編のぐっと引き締まった所謂ハードボイルドな文体がとても魅力的だ。村上春樹のMen Without Women(女のいない男たち)を再読して、やはり本家を読まなくてはと久しぶりにヘミングウェイの世界にどっぷり嵌った。暴力的なシーンも多いし、理不尽に物語が進んでゆく箇所も多い。すべてを書くのではなく、氷山でいうところの海面に出た部分だけが文章となって表現されているのだ。沈んでいる部分にどれだけに物語があるのだろうか。久しぶりに著者を投影しているニック・アダムスを堪能できた。2022/05/10
れみ
66
今回は「100分de名著」で取り上げられた「男だけの世界」より「敗れざる者」のみ読了。全盛期を過ぎた闘牛士マヌエルが周囲から引退を勧められながらも闘牛の試合に挑む…というお話。「老人と海」を読んでからだったので、あまりにも似たタイプのお話だったことにまず驚いた。だけど書かれた時期としてはこちらの方が25年ほど早いとのこと。「老人と海」に出てくる他の漁師たちと同じく、このお話に出てくる若い闘牛士たちに、主人公に対するある種のリスペクトが感じられるのが良いなあ。2021/10/18