出版社内容情報
美しい妻に裏切られた王虎(ワンフー)将軍は傷つき、自暴自棄になって兄たちがそれぞれ世話をした嫁を二人とも娶ってしまう。二人の妻は、男児と女児をひとりずつ生むが、息子の王淵(ワンユァン)は、軍人である父を憎み、祖父・王龍(ワンロン)の血を引いて土地を愛し、農民の生活に憧れる青年に育つ。革命活動が中国全土を覆うなか、いとこの猛(メン)と革命党に加わった淵は、捕らわれて死刑を待つばかりの身となるが……。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
のっち♬
121
父王虎と決別して家出した王淵は、従兄弟に誘われて加盟した秘密結社が摘発されて逮捕される。親の価値観を一方的に押し付けられて居場所を無くす王淵の苦悩は、時代を超えた普遍性が感じられる、世代間のすれ違いは本作の一つのテーマとも言えるだろう。物語に清冽さを添えている梨花も阿蘭に続く魅力的な女性で、その立体感のある造形は中国の教養で育まれた著者ならではのもの。序盤に比べると流れは弛緩気味だったが終盤の劇的な展開には引き込まれた。「僕が帰朝しても、あれだけは必ず残っているんだな。土地だけはいつまでも残ってるんだな」2018/09/06
夜長月🌙@読書会10周年
59
軍閥の首長たる父から息子の代に話は移ります。父のくびきから放たれた王淵は自分で考えることをようやく始めます。これまでいかにも過去のものとなった中国を見ているようでしたがようやく現代とのつながりを感じるようになりました。自分で選択するということは自分が責任を取ることでもあります。恋愛、職業、政治・・・すべてに渡って自分の決断を迫られます。しかし、時代の端境期にあって自分だけではない一族の関わりも深く感じられます。2021/05/15
Willie the Wildcat
58
無意識の内に、次世代へ受け継がれている親の歯がゆさと子の反感。五常の不十分さが齎す五倫への影響。ブレはせずとも細る軸。不安定な政情、経済が拍車。家族と祖国を模索。前者では、一族の1人1人が模索の中で自己を確立し、その違いを踏まえた上で保たれる家族の絶妙な繋がりが光。一方後者では、淵世代が彷徨い、心の解を求める苦悩。距離を置くことで光を見出すことができるか?生き様の異なる世代が、如何に負の連鎖を食い止めるのかも見所。土の家・・・、祖国の象徴。2015/10/10
Gotoran
55
物語は、王龍の意に反し軍人になった王虎から息子の王淵へ。息子を自分の後継者にしたかった王虎であったが、王淵は軍人には関心はなく、(祖父王龍の血を引くように)土地に愛着を。父親の執着から逃げ出し沿岸部の都会で聡明な義母とその娘、派手好みの愛蘭、従兄弟達(生、猛)と暮らすように・・メイン・ストーリーに加えて、列国の影響下の激動の中国社会での王淵他若者達、世話していた王龍の白痴の娘の死を契機に尼になった梨花、孤児を引き取り育てている義母(著者の思い入れ?)、が印象深かった。2014/07/20
キムチ
53
昔読んだときは王虎の無謀ぶりが前面に立ち、王淵の軟弱なかぶれ思想と西洋化への傾倒を表面的に捉えただけだったが、読み返すと飯粒を食った分だけ「息子の立ち場から見た」親の身勝手さ、時代の変遷からくる対立、国が必然的に直面している革命への足音などが猛烈な騒音となって行間に響く。中国のコアの部分を骨太に描いているのは西洋女性の筆とは言え、恐ろしいまで理の勝った客観的視方としても感じる。個人的にはいずれの巻も秀逸、その時代毎に彼、彼女が何を想いどう動きどう悩んだか、まるで血肉がついた文字の如く感じられる。2015/09/23