内容説明
月の妖しく美しい夜、ユダヤ王ヘロデの王宮に死を賭したサロメの乱舞。血のしたたる預言者ヨカナーンの生首に、女の淫蕩の血はたぎる…。怪奇と幻想と恐怖とで世紀末文学を代表する『サロメ』。夫の情婦といわれる女が臆面もなく舞踏会に姿を現すが、はたして夫人は?皮肉の才気に富んだ風俗喜劇『ウィンダミア卿夫人の扇』。ワイルド劇の頂点を示す『まじめが肝心』の3編。
著者等紹介
ワイルド,オスカー[ワイルド,オスカー][Wilde,Oscar]
1854‐1900。ダブリンに生れ、同地の大学を経てオクスフォード大学に学ぶ。「芸術のための芸術」を唱えて唯美主義、芸術至上主義に基づく活動を展開し、フランスやアメリカにまで名を知られた。小説『ドリアン・グレイの肖像』や『ウィンダミア卿夫人の扇』など一連の喜劇作品、世紀末文学の代表とされる悲劇『サロメ』などで文明高く時代の寵児となるも、男色罪による獄中生活の後は不遇な晩年を送った
西村孝次[ニシムラコウジ]
1907‐2004。京都市生れ。東北大学英文科卒業。’49~’78年、明治大学教授。19世紀末から20世紀にかけての英国作家について、多くの翻訳やエッセイを著している
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
びす男
69
「この世の中にはね、ふたつの悲劇があるだけさ。ひとつは、欲するものが得られないこと、もうひとつは、それを得ることだ」。「サロメ」、「ウィンダミア夫人の扇」、「まじめが肝心」の三本立て。劇の面白さを、快活な登場人物たちによる聡明な箴言の数々が彩る。とくに「サロメ」は、愛に溺れて自ら破滅に導かれた美しい姫の生き様を強烈に表現しており、たいへん印象的だった。オスカー・ワイルドの作品ははじめて読むが、筋の面白さと諧謔のセンスが光っているのを感じた。少し「できすぎ」の感もあるが、単純に楽しめるようにできている。2015/04/12
ワッピー
38
共楽Story Club課題本。王宮の闇の中で進行する歪んだ一方通行の愛。兄王を殺し、その妻を王妃として迎え入れたヘロデ王、王の非を公然と批判する預言者ヨナカーン、そして一目見た預言者に魅せられた王妃の娘サロメの物語。シュトゥックの妖しい絵のイメージで読んだため、どちらかというと直情な愛の発露には驚嘆。謎の女に大金を貢ぐ夫に苦悩する妻と見事な逆転劇「ウィンダミア~」、そして軽薄な遊び人2人が結婚のために奔走する「まじめが肝心」を収録。社交界を知り尽くし、自らも時代の寵児であったワイルドの面目躍如でした。2022/08/21
コニコ@共楽
27
悲劇『サロメ』とほぼ同時期に書かれた2つの喜劇を読みたくて手に取ってみる。『サロメ』の不吉さに比べて可笑しさ満載の喜劇だが、ワイルドはその中にチクリと皮肉を交えて言葉遊びしているところがあり、面白かった。時代のトリックスターだったワイルドが社交界を相手に笑いに包んで、ギリギリのからかいを仕掛けた劇のようともいえるかもしれない。当時、2つの喜劇は興行、大成功だったそうだ。そんな中、一世を風靡したワイルドが有罪になり、文学界からも消えていってしまったのは、残念だった。2022/10/06
ぺったらぺたら子
21
『まじめが肝心』の映画版を観て、あまりの面白さにびりびり痺れてどうしても読みたくなった。閉じた円環の、その見事な完全さ。そして完全な人工美は「現実」「自然」という正しさの醜悪さに立ち向かう「狂気」であろう。催眠的なリフレインで異空間を立ち上げる『サロメ』から『まじめ』まで、一貫して完全な美が狂気であることを証明しているようだ。すごいな、ワイルド。あと、サロメは「すれ違い」の話であって、人物が皆、自己という円環に閉じて触れ合わない悲劇という意味で、私にはチェーホフ的でもあった。2024/01/01
冬見
16
『ドリアン・グレイの肖像』『幸福な王子』を読んでいた頃、「サロメ」目当てで買ったまま積んでいた本。読んでみたら、「サロメ」よりも「ヴィンダミア卿夫人の扇」、「ヴィンダミア卿夫人の扇」よりも「まじめが肝心」が、といった具合におもしろさが更新されてゆき、とても楽しく大満足の一冊だった。「サロメ」は絵画や小説でよく取り上げられる題材で、あらすじやあのセンセーショナルな結末部なんかは読む前から知っていたが、物語にたちこめる濃霧のような暗褐色の幻想は期待以上。捕らわれ、そのまま物語の闇へ引き摺り込まれていった。2020/12/06