感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
新地学@児童書病発動中
113
ノーベル文学賞を受賞したベローの代表作。44歳のウィルヘルムの人生は行き詰っていた。お金と仕事はなく、妻とは離婚し、一緒にホテルに住んでいる父親は金銭的な援助をしてくれない。タムキンと言う怪しげな男にだまされて、投資につぎ込んだ700ドルも全損になる。そのような苦境の中で、ウィルムヘルムは「その日をつかめ」という人生の哲学に目覚めて、この世の人々との人間的な繋がりを実感するのだ。他人の葬式に彼が紛れ込んでしまい、彼が泣き出す最後の場面が素晴らしい。滑稽で痛切で、生きることの哀しみが胸に迫ってくる。2017/02/24
春ドーナツ
17
1955年の初夏の或る一日、ニューヨーク。ウディ・アレンの映画を観ているように物語は進む。シニックな笑い。題名は古代ローマの詩人ホラティウスの「抒情詩集」一巻十一章からの引用。訳者あとがきによると「翻訳の機会を与えてくださったのは佐伯彰一氏」。「あっ」と思う。「また佐伯さんだ現象」。さらにソール・ベローの「雨の王ヘンダソン」と「サムラー氏の惑星」を翻訳されているとの情報を得た。佐伯さんの謎は更に深まる。ちなみにソール氏はアイザック・アシモフさん同様、ロシア生まれ米国育ち。何となくナボコフ先生の顔が浮かぶ。2019/02/03
マサキ
12
初ベロー。ノーベル文学賞、実存主義的手法など言われると構えてしまうけれど、軽い文体でテンポ良く進んで一見お洒落。でもホテル内とその周辺の閉じた空間、そしてたった1日の話。自然に思考の中へと落ちていき、いつのまにかトミーの人生を背負ってることに気づく。シンプルな英語なのに訳のタイトルがたくさんあるのも試行錯誤を感じ、面白い。Seize the day. 現在をつかめ、この日をつかめ、その日をつかめ。やっぱりその日が好き。他のも読みたいけど、絶版だったり高かったり。ちょこちょこ古本を拾います。2019/02/07
やまぶどう
12
忘れ去られた名作(地味だけど)。私も内容をすっかり忘れていたし、ノーベル賞作家なのに絶版になって久しい。「マーブルアーチの風」にこの作品の名前が出てきたので、今読まなきゃ二度と思い出さないぞと思って学生時代の蔵書から引張り出す。妻子には逃げられ、金はないのに株取引に手を出し、父親にも見放されたダメダメな中年男ウィルヘルム44歳の一日の物語。ダメな方向にどんどん流れる弱々しい姿はやはり私自身と重なる。誰もが自らの重荷を背負い「いま・ここ」を生き、この日をつかむしかないのだ。2009/04/16
乙郎さん
11
小説を読むと頭の中に映像が浮かんでくるものだが、私には44歳相応のトミー・ウィルヘルムを想像することはできなかった。作者は本文中でウィルヘルムに対し直接的に評価は下していないものの、読者はウィルヘルムの自分を省みないダメっぷりに呆れざるをえないし、時には身をつまされる気分となる。それゆえにラストの皮肉なユーモアをどうとらえるかが問題となる。私は、あとがきにある捉え方とは正反対の意見です。2009/07/19