感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
nobi
70
“入門” とは言え真髄に迫るド直球の論。第2次大戦後間もない1949年のラジオ講演。収容所送りを直前に免れた自身の体験等に照らしても現実と遊離した内容の講演では済まされない。むしろ崩壊へと向かった世界を前に、哲学する意味を問い直すことでもあったよう。それは揺るぎない安寧の地に辿り着く旅ではないと繰り返し強調。理解し切れなくても気迫漲る言葉の連続に襟を正す思い。意外だったのは「神の思想」とした一講。従来の宗教の神ではない、いっさいが失われたときにただひとつ残る神、という現代人が見直してよいCredoかも。2022/06/11
びす男
48
誰をも神格化せず、どの思想にも絶対的な地位を与えないことが、哲学的な態度だと理解した。なにかに固執したとき、その目は曇り、視線は偏り、ありのままを認識できなくなる。何かを生涯で貫くのは格好よく見えもするが、場合によっては頑迷さへと転じてしまう。特にその人が排他的になっていたら、なおさらである。2020/09/10
ころこ
43
限界状況を前にして、超越者による導きにより二元論が統合され、自由そのものを超えていき、現存在としての人間は実存的な本来性を獲得する。神の存在証明の中で、照らし出されたものが人間の本質的な存在である。非ヨーロッパ的視線からすると、むしろ、神と言わないキリスト教ではないかということに直ぐに気付きます。厄介なのは、本書が『哲学入門』だということです。では、本書は何なのか。答えは、ザ・哲学であるドイツ観念論とは違うが、ヨーロッパの無意識が哲学に求めているのは神の存在証明である。最初の本としてはお勧めしません。2019/07/08
加納恭史
28
千葉雅也著「現代思想入門」から、フーコーの監獄論から権力や司法のことを学んだが、本当の哲学なのか疑問もでる。この本の著者カール・ヤスパース(1883~1969)はハンナ・アーレントの師匠だし、彼女に賛同の意を示していた。本書では彼はハイデッガーと並び称されるドイツの実存主義の哲学者。まず、哲学の入門書であるが、哲学に関し統一見解はない。哲学の根源的動機について、プラトンは哲学の根源は驚きであると言った。アリストテレスは言う、「人間に哲学する衝動を与えたのは驚異である」。また哲学は現世の利益誘導ではない。2023/03/30
呼戯人
22
ヤスパースの実存哲学入門。やや時代に抜き去られて、少しづつ忘却の淵に追いやられている哲学者の哲学概論。その独特の言葉使い、例えば限界状況であるとか包越者であるとかプロテスタンティズムと実存哲学が結びついて作られた独特の視点が面白い。私はこの本で、2500年前の知性の爆発を枢軸時代と呼んで精神革命が行われた時代だということに初めて気がついた。また、最近は5万年前の知性の爆発が論じられるようになったが、人類の知性の爆発は芸術や宗教や哲学という形を取って発展してきたものである、ということを知った。2016/03/18