感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
新地学@児童書病発動中
131
トルストイやドストエフスキーと並ぶロシアの文豪ツルゲーネフの2つの中編。トルストイやドストエフスキーにくらべて文章が自分の好みで、特に叙情的な風景描写が印象に残った。一つの風景を描きながら、そこに登場人物の感情の微妙な陰影を表現できるのだ。どちらの物語も薄幸の女性が出てきて、彼女たちを描くツルゲーネフの筆は繊細で、美しい。人間というより、すぐ散ってしまう花を哀惜を込めて描いているような気がした。この2つの物語が非常に気に入ったので、代表作の『父と子』も近いうちに読みたい。2016/05/09
のっち♬
101
円熟期の悲恋中編二篇。風景描写に印象派タッチへの移行が見られる『片恋』は、妾腹の自意識に苛まれた女性像の陰影の細やかで、著者の家庭環境にも由来すると思われる。トルストイの妹に入れ込んだ時期に書いた『ファウスト』の突然自我と慾情に芽生えた温室育ちの人妻の性格解剖も極めて精緻で、近代のメフィストを運命的な暗黒の力として描く神秘的手法の相性にも成熟が現れ、現代的なテーマ性を保持している。各々別の意味でゲーテを感じさせ、悲恋の必然性は30代らしからぬ老いと諦念を帯びた人生観照へ結びつき、余韻もペシミスティックだ。2023/08/11
syaori
53
作者のドイツ遊学時代の経験を反映した『片恋』と、ゲーテのモチーフを新しく生かそうと試みたという『ファウスト』を収録。どちらも男性の側から恋を語っているのですが、恋する男にとってその対象の女は何と美しい謎であることか。どちらの恋も堪能したのですが、「翼にのったような」幸福感と、その後の感情の行き違いがやるせない『片恋』が好きでした。主人公は最後、あの希望と憧れに満ちた時代の一体何が自分に「残っているでしょう?」と問いますが、恋の記念の花にほのかに残る香りのような微かな幸福の思い出の、何と美しく印象深いこと。2018/09/14
ほむら
11
はあ、読むのにすごく時間がかかってしまった!この本が発行されたのは昭和二十七年で、今とは文章の表現や漢字の使い方が違う。外国文学の翻訳だからかもしれないが、言い回しもいちいち難しい。一番痺れたのは「ファウスト」のヴェーラの台詞、「わたし、あなたを愛していますの、わたしあなたが恋しい」。率直で甘美な響きに震える。二篇ともハッピーエンドでないが、異質で情熱的な恋の形だ。熟れだせば止まらず、弾ける恋の形…。こういった語り継がれる良作というものは、一読ではとてもとても、すべてを吸収しきれない。2013/05/16
里馬
11
【片恋】彫刻家が溺れた娘を助け、恋に落ちる話。綺麗過ぎやしないかとうんざりする一歩前。崖っぷち文学に興奮、洗礼。【ファウスト】ゲーテのファウスト、を契機に人妻を寝取る、書簡文学。人妻、というジャンルを幼いが故に未だ解しないんだけど、主人公が友人に対して、罪悪を訥々と述懐するのが痛ましかった。2010/06/17