内容説明
最愛の妻を亡くした後、見知らぬ男から妻に届いた不審な手紙の謎を探る「もう一人の男」。遺された一枚の絵を手がかりに、息子が父親の暗い過去をたどる「少女とトカゲ」。ドイツ人青年とユダヤ系アメリカ人女性の恋を描いた「割礼」。ほかに「ガソリンスタンドの女」「甘豌豆」など、さまざまな人生の悲喜劇、男と女のスリリングな愛の局面が繰り広げられる。長い余韻を残す、七つの物語。
著者等紹介
シュリンク,ベルンハルト[シュリンク,ベルンハルト][Schlink,Bernhard]
1944年、ドイツ西部のビーレフェルト近郊に生れる。ハイデルベルク大学、ベルリン自由大学で法律を学び、’82年以降、ボン大学などで教鞭をとる。現在は、フンボルト大学の法学部教授。かつては、ノルトライン・ヴェストファーレン州の憲法裁判所判事でもあった。作家としては、’87年にヴァルター・ポップとの共著『ゼルプの裁き』でデビュー。’93年には『ゼルプの欺瞞』でドイツ・ミステリー大賞を受賞
松永美穂[マツナガミホ]
愛知県生れ。東京大学、ハンブルク大学などでドイツ文学を学び、現在は早稲田大学教授。訳書にベルンハルト・シュリンク『朗読者』(毎日出版文化賞特別賞受賞)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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metoo
66
7つの短編集。どの話も外国語映画賞脚本賞受賞作のよう。亡くなった妻に届いた手紙から始まる「もう一人の男」。ベルリンの壁崩壊後の東西人間模様を描いた「脱線」。絵を通して収容所やユダヤ人に纏わる父の暗い過去を紐解く「少女とトカゲ」。有能な女性と三重生活を送る多才な男性の飽くなき探求と転落の「甘豌豆」。ドイツ人青年とユダヤ人女性の一筋縄ではいかない恋の顛末の「割礼」。他に「息子」。「ガソリンスタンドの女」。どれも深く絡み合った植物のようで秀逸。2014/12/10
ちえ
41
愛に関する7つの短編。「少女とトカゲ」「脱線」「割礼」過去の歴史が一人一人のドイツ人に与える影響の深さを思う。それにしても「割礼」はききもせず余りにも極端ではないだろうか。「もう一人の男」は最後に温かみを感じる作品。「甘豌豆」終始、ちょっとちょっと大丈夫なの?良いの?とこちらが焦りながら読む。一編一編時間を空けながらの読了となったこともあるかもしれないが、前半の作品のしんみりした読後感が、最後の「ガソリンスタンドの女」での身勝手さにめちゃめちゃ腹が立って、この本全体の印象が下がってしまったかも。2023/08/20
まるっちょ
12
シュリンクはナチスドイツに取り付かれている。 それらを畏怖し、危惧しているがゆえに登場人物たちの心がすり抜けてしまう。 その畏怖さえなければ、私はこの作家をもっと好きになれるのに。 美しさに意味を見出す男を描いた「もう一人の男」、一人の神経質な男の転落を描いた「甘豌豆」。 好きなのは「少女とトカゲ」。余韻が残るのが好きだ。2017/02/09
コーデ21
12
「朗読者」ベルンハルトシュリンク著の短編集。「朗読者」よりいっそう文章が怜悧で快い読後感でした☆ 「逃げていく愛」という意味深なタイトルどおり、ほの苦い物語が主。現実世界との齟齬感をもつ男のふがいなさ溢れる「甘豌豆」や、ミステリアスな趣きある「トカゲと少女」などなど、どれも裏側の裏、を感じさせる繊細な持ち味♪しびれました (//▽//) 2015/01/13
sabosashi
11
ニホンでは文学とは、青春の文学とだぶって認識されている場合が多い。 青春の文学となると甘さと自己憐憫が大手をふるう。 シュリンクは政治に翻弄されるなか、より正確に述べるなら、日々の暮らしで湧きあがってくる思いの中身を掬い取り、示してくれる。 常におなじ思い、おなじ暮らしが続くはずなのに、幸か不幸か立ち止まってしまうというところか。 それは、つまり生きてきたことを顧みるという意識であり、ふつうの若いひとたちには思いもつかない芸当の域に達していることがある。 2014/11/10
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