内容説明
東京から深澤が転校してきて、何もかもおかしくなった。壮多は怪我で「鹿踊り部」のメンバーを外され、幼馴染みの七夏は突然姿を消した。そんな中、壮多は深澤と先輩の三人で宮沢賢治ゆかりの地を巡る自転車旅に出る。花巻から早池峰山、種山高原と走り抜け、三陸を回り岩手山、八幡平へ。僕たちの「答え」はその道の先に見つかるだろうか。「青」のきらめきを一瞬の夏に描く傑作。
著者等紹介
伊与原新[イヨハラシン]
1972(昭和47)年、大阪生れ。神戸大学理学部卒業後、東京大学大学院理学系研究科で地球惑星科学を専攻。博士課程修了後、大学勤務を経て、2010(平成22)年、『お台場アイランドベイビー』で横溝正史ミステリ大賞を受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
388
タイトルがいい。しかも、最後の一文を読み終えた時、そこに立ち上がる抒情はまことに香り高い。物語は、花巻農芸高校地学部の3人を中心に展開するが、宮沢賢治、とりわけ『銀河鉄道の夜』の考察は、ほとんど専門家並みのレベルである。しかも、それが物語の核を成すばかりか、プロットの進行をも巧みに促してゆく。また、深澤と七夏の抱える秘密と、不可解な行動がサスペンスとして機能するが、前半ではそれはむしろ煩わしいものと考えていた。しかし、後段になってその意味が明らかになるにおよんで(それは半ば以上予想通りなのだが)、⇒2025/05/07
そる
380
宮沢賢治とその拠点である岩手県花巻市をベースにした高校生主体のミステリー要素のある青春もの、となれば、好きな要素ばっかりで大変満足です!登場人物たちがちょっとめんどくさいなーと思って読んでましたが残り1/4で真相がわかりそこから少しの感動と爽やかさが吹き抜けさっぱりスッキリな感じ。伊予原さん博識過ぎます。でもこの賢治情報やうんちく、すごく興味深くて良かった。「「部屋にこもってフォークを弾いてる青春でいいんだ。汗だくになって鹿踊りを踊る青春でいいんだ。毎日一人で化石ばっかり掘っている青春でいいんだよ」」2021/07/16
hiace9000
139
宮沢賢治が教鞭を執った花巻農業高校をモデルに、伊予原「地学」&賢治「文学」の融合で生まれた青春ミステリー群像劇。高校生たちの青々とした若さと熱、風光明媚なる東北・岩手の自然群、さらにファンタジックで切ない賢治の心象を投影した作品群が醸す“青”で織りなす、3人の高校生たちのひと夏の成長譚は、正に胸のすく清々しさ。謎多きそして難解な宮沢賢治の文学世界を、地学的考察で解き明かそうとした先哲・先学がこれほどいたことにも驚き。ともあれ、伊予原さんの「青」描きはいつもながらに壮麗。様々な意味合いの「アオ」なのである。2025/01/15
けんとまん1007
135
宮澤賢治、東北。それだけで想像が広がる。花巻、農芸高校の響きもいい味わいがある。近くに、農業高校があるので、多少なりとも親しみがある。青という文字からは、やはり、青春の2文字を連想してしまう。高校生という年代ならではのものがたりだなあ~。続きがあってもいい。2022/07/07
nico🐬波待ち中
133
宮沢賢治の不朽の名作『銀河鉄道の夜』。あの幻想的な物語の舞台となった場所を男子高校生達が辿る物語。ジョバンニが銀河鉄道に乗り込んだ丘に、読み手である自分が立てるなんてとても羨ましい。そして、あのラスト。違う結末も用意されていたことに驚いた。賢治は十年間も『銀河鉄道の夜』を書き直し続け、結局未完成になってしまったけれど、ラストの描き方を賢治は本当はどのようにしたかったのか、とても興味深く思った。賢治の作品に出てくる「青の果て」。賢治が思い描いた「青」について、この物語の高校生達と同じく、私も思いを巡らせた。2020/04/13