内容説明
老人の健康法は歩くことですッと医者に厳命され、朝の通勤時間帯、忙しなく人々の往き交う都会のドまん中を、老監督は歩く、歩く。と、たちまち聞こえてくる内なる声。シンドー、お前はボケと安楽死と、どっちを選ぶ。妻が万一の時、お前はどうする。もう色慾は消磨したのか、それとも…。ユーモラスな自問自答が軽妙にして切実、繊細かつ大胆な「老い」をめぐる人生談議。
目次
1 ボケ老人の孤独な散歩(ボケへの恐怖;ボケるよりは安楽死がしたい;「安楽死」夢想;安らかには死ねない?;孤独な散歩者の「老いと性」;「伴侶」考;私と妻の「死の準備」)
2 あぐらをかいて人生談議(遺言状を書く必要がなかった人;「色慾消磨」後をめぐる人生談議;失われしエロティシズムを求めて;「ヘア」後のエロティシズム)
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
s-kozy
54
映画監督、脚本家・新藤兼人さんのエッセイ。新藤さんは1912(明治45)年〜2012(平成24)年、100歳で没している。この本の文章は1990(平成2)年前後、つまり古希を過ぎて80歳を迎える頃に書かれている。この頃は奥様の乙羽信子さんも元気で内容は認知症への恐れ、安楽死、夫婦どちらが看取るか?老いと性などについて考えられており、興味深かった。日本で介護保険制度がスタートしたのが2000(平成12)年。昨今は終活なんて言う言葉も市民権を得てきた。新藤さんの頃とお年寄りの意識は変わってきているのかな?2017/10/31
岸野令子
2
1993年に出されたものの文庫版で1996年のもの。この間に乙羽信子さんが亡くなられた。153ページに「今日は、お祭りですが、あなたがいらっしゃらないでは何の風情もありません」と言う「一枚のハガキ」のことが出てくるのでハッとした。最後の作品になった挿話である。荷風については笑いました。2012/11/05