内容説明
女性や老人だけを狙った通り魔や強盗傷害を繰り返し、自暴自棄な逃避行を続けていた伊豆見翔人は、宮崎県の山深い村で、老婆と出会った。翔人を彼女の孫と勘違いした村人たちは、あれこれと世話を焼き、山仕事や祭りの準備にもかり出すようになった。卑劣な狂犬、翔人の自堕落で猛り狂った心を村人たちは優しく包み込むのだが…。涙なくしては読めない心理サスペンス感動の傑作。
著者等紹介
乃南アサ[ノナミアサ]
1960(昭和35)年、東京生れ。早稲田大学中退後、広告代理店勤務などを経て、作家活動に入る。’88年『幸福な朝食』が日本推理サスペンス大賞優秀作になる。’96(平成8)年『凍える牙』で直木賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
yoshida
405
罪と贖罪、償いと許しの物語。父親の愛に飢えて育った青年は越えてはならない一線を越える。青年の犯した強盗や傷害の罪。青年は刹那的な逃避行で宮崎の山里にたどり着く。偶然から老婆を助けた青年は、素朴な山里の人々の優しさに触れ、荒んだ心もほぐれてゆく。しかし、罪は償わねばならない。ほのかな思慕から自身の罪深さに気付く青年。老婆への息子の無体からも、青年は自身の償いの必要さを悟る。人は人に傷つき、己れを見失い罪を犯す。だが、その傷を癒し罪の深さを気付かせるのはやはり人。人の優しさなのだ。最期に救いがある暖かな作品。2018/03/01
kaizen@名古屋de朝活読書会
307
強盗?殺人?なんか暗い出だし。車から追い出され、自損事故で怪我している人に出会う。なんか嫌な話。読むの辞めようかと思った。数頁進むと、田舎の、年寄りのほのぼのとした話。著者紹介に「巧みな人物造形、心理描写が高く評価されている」。著者は東京生まれらしいのに、田舎の暮らしをうまく表現している。読んでいる自分が田舎の暮らしを知らないからなのだろうか。ほのぼのとした小説に転換。都会が人を駄目にするんだ。最後は予定調和的でやや駆け足なのが残念かも。都会の生活がしゃぼん玉という意味なのか。あんな年寄りになりたい。2013/06/07
おしゃべりメガネ
264
読友さんのレビューにより、初読み作家です。自暴自棄な青年が、とあるコトから名前も知らない田舎に迷い込み、偶然出会った老婆の家に居候し始め、人々とふれあい荒んだココロが再生していく話。とにかく読みやすかったです。女流作家さん特有の柔らかい表現で、読む側に全くストレスがないです。見ず知らずの町・人では、‘虚勢‘は全く無意味で、やはり結局はいい意味で‘素直‘になり、周囲と順応することの難しさ、そして大切さを学びます。その中でも何より大切なのは自分の意思を持つこと。そして、一歩でもいいから前に踏み出すことかなと。2014/01/21
カメ吉
260
一人の本当に救いようのない青年の更生物語で色々と自分の今までの生き方と共に考えながら読みました。でも、よかった。初の作家さんでしたが好印象でした。 作中に出てくる椎葉村やそこで生きる村人たちがリアルで生活感が伝わって入り込んでしまいました。また読みたい作家さんが増えました。2017/02/06
ちょろんこ*勉強のため休止中
255
お年寄り・動物・子供のいずれかがキーポイントになると私の涙腺は途端にもろくなる。予定調和の展開ではあったが、起承転結の構成もきっちりしていた。青年の心の動きも自然で良かった。だが読中ずっと私の心は暗く重苦しかった。去年ひったくりにあい、(私にとって)大金を盗られた上にトラックに轢かれそうになったのだ。その犯人と青年が重なってしまい、気分が沈み込んだままだった。パーソナルな経験が読書にこんな影響を及ぼすという事をしみじみ痛感した。あの経験がなければ、読後感はかなり違っただろうと思うと本当に残念で悲しい。、2014/04/10