内容説明
漱石門下の異才・内田百〓の代表的著作のひとつに数えられるこの随筆集は、昭和8年に上梓されるや大いに評判を呼び、昭和初期の随筆ブームの先駆けとなった。漱石の思い出から自らの借金話まで、軽妙洒脱、かつ飄逸な味わいを持つ独特の名文で綴られた作品群は、まさに香り高い美酒の滋味妙味たっぷり。洛陽の紙価を高めた古典的名著が、読みやすい新字新かな遣いで新潮文庫に登場。
目次
短章二十二篇(琥珀;見送り;虎列刺 ほか)
貧乏五色揚(大人片伝;無恒債者無恒心;百鬼園新装 ほか)
七草雑炊(フロックコート;素琴先生;蜻蛉玉 ほか)
著者等紹介
内田百〓[ウチダヒャッケン]
1889‐1971。本名・内田栄造。別号・百鬼園。岡山市に酒造家の一人息子として生れる。旧制六高を経て、東京大学独文科に入学。漱石門下の一員となり芥川龍之介、鈴木三重吉、小宮豊隆、森田草平らと親交を結ぶ。東大卒業後は陸軍士官学校、海軍機関学校、法政大学のドイツ語教授を歴任。1934(昭和9)年、法大を辞職して文筆家の生活に入った。初期の小説には『冥途』『旅順入城式』などの秀作があり、『百鬼園随筆』で独自の文学的世界を確立。俳諧的な風刺とユーモアの中に、人生の深遠をのぞかせる独特の作風を持つ
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感想・レビュー
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buchipanda3
107
百鬼園(ひゃっきえん)先生の随筆集。中には小説みたいな話もあり、本当か区別は付かないがそれはどうでもよくて兎に角、面白く読めた。幾つもある篇をずぅーっと読み耽っていると朧気に先生の人となりと威厳を見せるその姿が浮かんでくる。少年時代の先生と祖母、先生と生徒のやり取りが良いなと。風の神の話は著者創作の根となったのでは。授業中の居眠りや遅刻、髭や転けた話などはコントのよう。らしいと言えば教え子の披露宴の話が可笑しくて可笑しくて。そしてなにより恩師宅に弔問した時の自分の不徳を責める心情が何とも先生らしく思えた。2023/08/29
がらくたどん
71
さて内田百閒②『百鬼園随筆』は福武や旺文社も文庫を出しているが私はこのカバーと川上弘美氏の解説に惹かれて新潮文庫が好き。三上延の『百鬼園事件帖』を読んだので引っ張り出してきた。このカバーに使われている変な絵が例の芥川の悪戯書き。川上さんの解説以上に書くことがない。でも悔しいので・・私は本書を読んで初めて「蓄鬚(ちくし)」という語を知った。万事そういった語彙発見の宝庫である。「お金の有り難味の、その本来の妙諦は借金したお金の中にのみ存する」的な屁理屈(つまり真理)の宝庫でもある。山高帽とフロックコートで→2023/10/04
Tadashi Tanohata
51
漱石門下生で龍之介と親交を結ぶ内田百閒の代表的随筆集。借金と遅刻の常習犯だがまったく憎めない。時代背景がそうさせるのか、文豪のなせるワザか。そう考えると現代作家には制限が多すぎるのか、借金も遅刻もSNSで大騒ぎ。カバー装画は龍之介と。2020/06/04
けぴ
45
洒脱な文章が冴える内田百閒の随筆集。どこまでが実話で、どこからが法螺か分からないような自由気儘さを感じる。借金の話が沢山出て来るが悲壮感はなく、寧ろお金に縛られない生き方を示される。解説の川上弘美さんによる内田百閒が芸術院会員を辞退する理由として述べたとされる「イヤダカラ イヤダ」の顛末も興味深かった。2025/04/04
hippos
41
事実を淡々と書いているだけなのにそれだけで何かおかしみを感じる。特に借金に関するくだりはイカれているのかユーモアなのか区別はつかないギリギリのところがけれども、きっと本気なのだろうと思う。文章と生き方が一致しているのだろう。いっぺんで好きになった。 それにしてもかつての日本は貸す方にも借りる方にも余裕とユーモアがあって現代ニッポンと同じ人種なのかと思ってしまう。2024/07/31