内容説明
消エルコトニシタ…。レディ・ジョーカーからの手紙が新聞社に届く。しかし、平穏は訪れなかった。新たなターゲットへの攻撃が始まり、血色に染められた麦酒が再び出現する。苦悩に耐えかねた日之出ビール取締役、禁忌に触れた記者らが、我々の世界から姿を消してゆく。事件は、人びとの運命を様々な色彩に塗り替えた。激浪の果て、刑事・合田雄一郎と男たちが流れ着いた、最終地点。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
511
見事なまでの幕引きだった。小説の終わりはこうでないと、と思う。これまで、上・中・下巻を通して組織の中に置かれた人間が問われ続けてきたが、最後はやはり寂寥感に包まれる。半田の破滅型の人生観、そして、それに呼応するかのような合田のそれ。老年となって、これまでの生を踏みしめつつ鬼の顔を捨てることができない物井。しかも、あれほどの事件が、より大きな巨悪の前には霞んで消え去っていくというシニカルさ。高村薫の視座は大きくも深い。そして、読者である我々に残されるのは深く底知れぬ虚無である。2018/05/24
ちょろこ
157
物哀しさ、衝撃の一冊。上中下巻、正直中弛み感はあったけれど読み応えのある重厚な作品だった。誘拐組織レディ・ジョーカー。警察。企業。この三つを軸に展開されていく物語。差別に左右される人生、悪を悪とせず葬られる理不尽さ、個人で抗えない巨大な組織の壁。いつの時代、至る所でそれが感じられる虚しさといい、序盤から終始、物哀しさが漂う印象。終盤は特になんとも言えない風が心に吹く。合田が抱える虚しさも競馬場でのレディの姿にも。そしてこの巻はつくづく重要な巻だったこと思い知らされた。合田の心の中は予想外。衝撃だったな。2021/08/17
小梅
154
読み応えのある大作でした。 ずっと合田刑事を演じさせるなら誰かなぁ〜と思いながら読んでましたが、ついにベストなキャスティングはできませんでした。2016/08/18
KAZOO
141
再度読み直しましたがあっという間に読み終えました。最初に読んだ頃の印象がぜんぜん異なります。今の時代とはかなり異なるような感じがするのもうなづけます。主人公の恵二たちや新聞記者たちの書き方も従来の物語のような感じではなく現実の状況などを反映している気がします。読み終わってみてもなんかすっきりした感じはなく考えさせるような書き方です。2018/02/14
yoshida
122
濃密な作品だった。事件を起こした男達。いつしか彼等も巨悪に呑み込まれようとする。総会屋、暴力団、そして政界。様々な金の流れが人々を狂わせる。ここまで人が亡くなる作品とは思わなかった。合田の執念。半田の闇。合田の行動による自首。それでも身内の犯罪を精神鑑定で蓋をしようとする警察。現在でも不可解な未解決事件や、あまりに早い幕引きの事件もある。その裏には官と政治の力が働いていよう。合田もそこを切り開けなかった。現代も生き続ける闇に遭遇した心持ちだった。作品の持つ緻密さと引力に読者も気力が要る。読了後は放心。2021/07/17