内容説明
原発技術者だったかつて、極秘情報をソヴィエトに流していた島田。謀略の日々に訣別し、全てを捨て平穏な日々を選んだ彼は、己れをスパイに仕立てた男と再会した時から、幼馴染みの日野と共に、謎に包まれた原発襲撃プラン〈トロイ計画〉を巡る、苛烈な諜報戦に巻き込まれることになった…。国際政治の激流に翻弄される男達の熱いドラマ。全面改稿、加筆400枚による文庫化。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
378
原発を巡る国際謀略サスペンス。こういう題材であれば、ややもすると荒唐無稽で陳腐な内容になりかねないのだが、さすがに高村薫、ひじょうに緻密な構想のもとに着実に小説世界を組み立てていく。ことに原発と、コンピューターに関する知識には並々ならぬものが感じられる。アメリカ、北朝鮮、中国、ソ連(当時)のそれぞれの思惑が蠢く中で、複雑怪奇な情報戦が水面下で繰り広げられてゆく。小説の前半は、何が何か分からず困惑を強いられるが、上巻の終わり近くになってようやく過去の経緯が明らかになる。下巻の行方は杳として知れない。2018/02/27
ゴンゾウ@新潮部
122
高村薫さんは本当に男達の熱いドラマを描くのが巧みだ。主人公島田を取り巻く男達の緊張感のある熱い関係。特に良に対する愛情は何なのか。物語自体はとても難解。ペレストロイカの波に揺れるソヴィエトと北、アメリカの原発を巡る諜報戦。読み進めるのに苦労する。2016/04/06
nakanaka
71
旧ソ連のスパイとして生きてきた島田が主人公の重厚な物語。国際的なスパイとして生きている人は必ずいるわけで、実際にあるんだろうなと思わせるリアルな描写が凄い迫力です。東日本大震災による原発事故が起き、そのことによって原発の専門用語をよく耳にする機会が増えたわけですが、そのせいで詳細な描写や専門的な用語の多く出る本作ですんなりと頭に入る役に立ちました。再び裏の世界に戻ることになる島田が下巻でどうなってしまうのか楽しみです。2024/03/15
みも
58
CIA・KGB・北朝鮮工作員の諜報活動。ソ連ではペレストロイカが推進され、米ソの均衡が揺らぎ始めた世界が歴史的岐路を目の当たりにする激震の時代。原発を巡る各国の思惑とスパイの暗躍。正直に吐露すると、全貌を掌握しきれず字面を追うだけの読書に陥っている。ディテールがリアリティ形成に不可欠だとしても、やや冗長に感じるのは僕自身の読み込みの浅薄に起因するのか、作品自身が持つ欠陥なのか判断がつかず。裏世界故の暗示的な言い回しが多く、困惑は如何ともし難い。この壮大な構成についていけるのか甚だ怪しいが、ともかく下巻へ。2018/01/17
NAO
52
再読。原発技術者にしてその極秘情報をソヴィエトに流すスパイでもあった島田。過去を捨てて新たな生活をしていた彼の前に、過去がまた立ち戻ってくる。高村薫の神経質なほどに細部にこだわった描写は、なかなか読みにくいところもあるが慣れると癖になる。登場する男たちが妙に何かに強いこだわりを持ち、ちょっと壊れかけたような危うさがあるのもこの作者の特徴だが、島田はこの作者が描く主人公としてはかなり普通の感覚を持っているように思う。日野や彼の妻は、相当危ないけど。2016/06/13