内容説明
わたしはハングルに感電した―。アメリカで出会った友人に影響され、雅美は韓国語に魅せられて、ついに留学を決意する。ところが文化の違いから、いらだちと挫折感を味わうようになって…。東京とソウルを行き来する青春の日々を新しい感性で描く『君はこの国を好きか』に、ふとしたことから、在日であることを自覚させられる男子大学生を主人公にした『ほんとうの夏』を併録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
328
2篇を収録。前半の「ほんとうの夏」は在日3世の大学生、俊之の戸惑いを軽いタッチで描く。後半の表題作では、それがより深刻な形で描かれることになる。ここでは在日3世の雅美を描くが、韓国の語学院(その後は大学院に進学)で苦闘する彼女にとっては、まさに異文化の克服を意味していた。在日の彼女たちにとっての韓国は、アメリカに対するそれとは違って複雑だ。すなわち祖国として「好きにならなければ」という強迫観念を背負うからである。境遇は違うものの雅美には著者自身が投影されているが、それは強烈なまでの異文化超克の体験だった。2017/05/13
新地学@児童書病発動中
114
表題作はハングルに感電したと感じた女性が、韓国に渡って韓国語を学び続ける話。これまで読んだ鷺沢さんの小説とは全く異なる内容で、新鮮さを感じた。恋愛や都会の生活といったことは描かれずに、ひたすら韓国の言葉や文化に溶け込もうとする苦闘が書かれて、読み手の胸を打つ。情の濃い韓国の人達の生き方に閉口しながらも、それを必死になって受け入れようとする主人公に深く共感した。在日韓国人の人達の祖国との関係については、これまで考えてみたこともなかった。近くて遠い国である韓国について、目を開かせてくれる素晴らしい小説。2017/05/02
アコ
31
中篇2作。どちらも若い在日三世を主人公とし「自分は何者なのか」という疑問や葛藤、それに伴う行動、人間関係や友情を美しく読みやすい文章で描く秀作。表題作はルーツを求めて韓国に留学するも、そこで受ける差別や生まれ育った日本との文化のあらゆる違いに直面し体調を崩す。それでも韓国を捨てきれず、嫌いになって日本に帰らないのは祖国だという思い。苦悩する雅美の姿は読んでいて辛いものがあるも応援する気持ちに。最近なにかと複雑化する在日コリアン差別や日韓関係をどのような物語にしたのかと考えると早逝が悔やまれる。2017/06/17
ichi-papa
31
後期の鷺沢めぐむさんがよくテーマにした、在日三世の物語。日本人でもなく韓国人でもない、日本人であり韓国人である・・・。その複雑な心のありようがしっかりと表現されております。純日本人であり日本に住む私が「その気持ち、わかるわかる」とは軽々しく口にできませんが、「そうなんだろうなあ」という疑似体験はさせていただきました。 テーマはとっつきにくいかもしれませんが、しっかりと考えさせられる、いい作品でした。2016/02/09
ふみ
26
二つの物語の主人公たちのもやもやへの問いと答えはこのタイトルに象徴されるのではないかと思う。2018/05/09
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