内容説明
日本最東端絶海の孤島・南鳥島、漆黒の大鐘乳洞、容赦ない豪雪、美しく広がる大珊瑚礁、崩れる山、荒れ狂う川、生き物たちを優しく包み込むブナ林、マングローブ―。人類誕生の遙か昔より恒久に続く、大自然の厳かな営みを鋭利な科学の眼と真摯な文学の眼で綴った12篇の紀行文学。東西3000キロ、南北2500キロに及ぶ日本列島探査の旅は、荘厳な大自然とそこに暮らす人々への深い畏敬に満ちたものとなっている。
目次
五島列島のミニ火山群
内間木洞の暗黒体験
白峰、炉端で聞く豪雪の話
八重干瀬、気宇壮大な潮干狩り
立山砂防百年の計
サハリン、北緯四七度の白樺林
乗鞍岳に降る宇宙線
白神のブナと秋田の杉
南鳥島特別航路
雨竜沼、湿原の五千年
対馬、大陸へつながる海の道
八重山諸島、マングローブの豊穣
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ミカママ
501
ときはバブル、天下の名門旅行雑誌が天才作家(当社比)に「いくらでも勝手に旅をしていい」とオファー。訪れたのは日本津々浦々(文字通り)の火山、鍾乳洞、大潮、豪雪…。理系作家面目躍如の斬り込みと叡智を持って完成した紀行エッセイ。ご本人による写真も厚みを加える。コロナ禍でなくても簡単に行けるところは少ないし、むしろよほど暇とお金がなければ遠慮したい、という土地ばかり。けれどもエッセイを通じて「行った気分」にさせるその手腕はさすが。2021/11/11
翔亀
47
日本各地の旅行記12編。気儘な紀行文ではない。雑誌連載のため目的を定めたテーマ性のある旅行で、だから下手すると「旅行ガイド」になりかねないが、そこは池澤さんのこと「自然」をテーマとする。しかし景観とか美しさではない。地質学、地理学、植物学的な関心で行く。そうすると普通は学問的に希少な植物とか植生を、ということになるがそうでもない。あくまで個々の地形や動植物ではなく、全体としての生態系を見ようとしている。そういった観点から選ばれた12の旅。理知的でありながら"自然"が語ってくる、という池澤さんの資質全開だ。2015/11/02
Shoji
36
一風変わった紀行文。サハリンであったり、南鳥島であったり、八重山諸島であったり、対馬であったり。観光旅行ではなく、かと言って学術目的の現地踏査でもない。着眼点がいい。海の深さであったり、火山の規模であったり、朝鮮半島への距離であったり、太古の地勢であったり。実際に歩いて感じたこと、見たことをありのままに豊かな感性で綴っています。紀行文にも関わらず、惹き込まれるような美しい文章です。著者のこの感性、私は好きだ。静かに読了しました。2022/08/25
さっと
8
どこにも行けなくなるステイホームのお伴に買っておいた紀行文の類いもこれでおしまい。なんとかツーリズムの中で個人的な好みはジオパーク。これは地球全体の時間尺度で遥かな営みを感じる贅沢なもので、日高の東端にあるアポイ岳のビジターセンターにある「見る人が見たらお花畑」という表現にその魅力は集約されている。で、本書もジオと親和性のある、火山、鍾乳洞、豪雪、干潟、砂防、森、湿原、マングローブ、高山(宇宙観測)、孤島(気象観測)、国境と地理をテーマに行き先が決まる。個人的にはGoTo立川砂防(富山)。ググったらすご。2020/09/11
momo
7
本書に収められている十二の紀行文は、読者を豊かな自然へと誘ってくれます。旅の中で池澤さんが感動したこと、今後考えていかねばならないこと、それに関する興味深い知識が洗練された美しい文章で表現されていて、一緒に旅にいったような贅沢な気持ちになります。南鳥島に向かうときの船上での緊張感やトビウオがすっと飛ぶ姿が伝わってきてはっとさせられました。本書から自然に対する池澤さんの眼差しが感じられて、それが大きな魅力になっています。たとえ遠くに出かけなくても、身近な自然を見つめることで心を解放できるのだと思いました。2015/10/01