内容説明
また会おうよ。実現しないとわかっていても、言わずにはいられなかった―。病弱な双子の弟と分かち合った唯一の秘密。二人の少女が燃える炎を眺めながら話した将来の夢。いじめられっ子からのケットウジョウを受け取った柔道部員の決断。会ったこともない少年少女のなかに、子どもの頃の自分が蘇る、奇跡のような読書体験。過ぎ去ってしまった時間をあざやかに瑞々しく描く、珠玉の作品集。
著者等紹介
湯本香樹実[ユモトカズミ]
1959(昭和34)年、東京生まれ。東京音楽大学音楽科作曲専攻卒業。小説『夏の庭―The Friends―』は’93(平成5)年日本児童文学者協会新人賞、児童文芸新人賞を受賞。同書は映画・舞台化されるとともに世界十ヵ国以上で翻訳され、’97年にボストン・グローブ=ホーン・ブック賞、ミルドレッド・バチェルダー賞に輝いた。2009年絵本『くまとやまねこ』で講談社出版文化賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
SJW
187
過去の回想が多くを占め、何らかの形で死に関わってくる6つの短編集。読んでいると自分の子供の頃や若い頃の情景と亡くなった親族、友人を思い出させてくれる。解説にあるように、失ったと思いこんでいても、思い出すことによって、取り戻せることを実感した。2018/10/19
yoshida
178
静謐で透明な世界観を持つ短編集。言葉に無駄がなく、水の中に沈み込むように物語に惹き込まれる。漂う死の影。白眉は標題作だろう。お互いを支え合う姉弟。引かれる手。その絆と記憶が、私達を過ぎ去った過去に誘う。私にも姉がおり二人で過ごした幼少の何気ない記憶がある。この作品は過去は過ぎ去り失われたものではなく、私達の心の中で帰れる場所だと教えてくれる。標題作のラストに心震える。そう連れ戻すのだ。その手を離さぬように。私も姉が亡くなれば、私の心の一部も欠落するだろう。それは他に埋めようのない事だ。繰返し読みたい作品。2018/10/27
ちなぽむ and ぽむの助 @ 休止中
175
元気だと振る舞い、笑う。誰にも言えない。こんな柔らかな部分をさらけ出したら生きていけない。自分は弱い人間だと、認めることはできない。 叫びだしたい。夜の静けさを切り裂いて嗚咽をあげて泣きたい。 トモリの木の下には弟が眠っている。繭のように。ジャスミンが匂い立つ静謐な夜のように。 静かで、青く青くあおくどこまでも透き通る。このまま音のない夜が永遠に続けばいい。ブランコを漕ぐと頬に当たる風。住宅から漏れるあたたかな灯りの隙間を縫って、青く葉を伸ばす夜の木を縫って、冴え渡る夜空に星。2019/08/01
しいたけ
114
ただただ心を満たしていく透明感。この人の透明感は何なのだろうと感嘆して読み終わると、解説にも透明感の説明が。過去に遡りそっと撫でる大切な人。苦しかった日々に寄り添ってくれた守りたい人。胸に抱え濾過した想いが、深い森の香りを纏った水になり流れゆく。その一瞬に立ちあえるひっそりとした喜び。どの短編も、これがいちばんと思い読み終わる。それ故か、最後の表題作の姉弟にグッときた。私にも二人にしかわからない時を過ごした弟がいる。弟が死んだとき、私は本当の意味で一人ぼっちになるだろう。必ずどちらかが先に逝くのだけれど。2017/11/21
はたっぴ
101
先日、甥っ子の宿題の手伝いで物語を作った。2人で原稿用紙を前に固まること小一時間。生みの苦しみを経験すると、このような作品を読むのがますます楽しみになり感動もひとしおだ。昨年読んだ『ポプラの秋』が脳裏に焼き付いていたのだが、今回の短編集も素晴らしかった。読みながら子供時代に戻り、いつも一緒にいた妹とセピア色の映像を見ているようだった。特に『マジック・フルート』の世界観は秀逸。異界のような不可思議な場所に引きずり込まれ、忘れかけていた懐かしい記憶の断片が蘇る。まるで自分の歴史をなぞるような読書だった。2017/11/04
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