内容説明
五十歳で初めて子を授かった松坂熊吾は、病弱な妻子の健康を思って、事業の志半ばで郷里に引きこもった。再度の大阪での旗揚げを期しつつも、愛媛県南宇和の伸びやかな自然の恵みのなかで、わが子の生長を見まもる。だが、一人の男の出現が、熊吾一家の静かな暮らしを脅かす…。熊吾と男との因縁の対決を軸に、父祖の地のもたらす血の騒ぎ、人間の縁の不思議を悠揚たる筆致で綴る。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ミカママ
440
輝やんがその作家生命を賭して書いたと思われる彼のライフワーク二作目は、故郷南宇和編。自然に囲まれた彼の地でも、熊吾の周辺では相変わらず事件が起き、人が亡くなっていく。ある意味、粗野の塊みたいなこの男だが、実は思いやりに溢れ、言葉の端端に教養を感じさせるのである。よって憎めない。「何がどうなろうと、たいしたことやあらせん」。この勢いのまま、次巻へ。【動物虐待・婦女子へのDVあり】2019/01/11
KAZOO
174
この作品を読んでいると若干辻原さんの作品とかぶるような感じもあって既視感があります。それにしても子どもを50を過ぎてから得て大阪から宇和島に主人公は引き込んでしまいますが、当時としてはもう引退をと考えるのでしょうがエネルギーの塊のような感じですね。今の時代にはおさまらない感じの主人公で、当時の昭和の熱気なども感じられます。2017/03/13
33 kouch
100
故郷での伸仁との触れ合いや自然が描かれる1冊。ただ村の人の描写は辛辣。「閉鎖性という言葉で一括りに出来ない底意地の悪さが蠢いている。思いもよらぬ陰湿な噂話はすぐに広がるが、耳の痛い真実は頑固に拒否し、常に数の多い方に味方し、体制におもねり、権威に平伏し人々の顔と腹はいつも異なる」。肥溜に伸仁が落ち、その畑主に熊吾がクレームに行くシーンが印象的。畑主の曾祖母は過去に落ちたものは一人のみ、危険でないと言い張る。その一人は死んだのか、言い寄る熊吾にそれはあんただしっかり生きとると答える曾祖母。まるでコメディ2024/02/12
かみぶくろ
94
第一部を読み終わったあたりから薄々感づいていたけど、この大長編、ものすごい傑作なんじゃないかという予感がしている。多様な登場人物が織りなす些細な喜び怒り哀しみ楽しみ、そして生き死にを、満天の星々が祝福している、そんな感覚に陥る。まだまだ先は長いけど、そのことが嬉しい。2018/12/03
buchipanda3
93
今回は松坂熊吾の郷里・愛媛の南宇和が舞台。田舎でも熊吾は熊吾だった。都会の喧騒を離れ自然に囲まれて4才の息子を育てる中、彼は様々な騒動に巻き込まれる。猛り立つ闘牛を撃つ場面は迫力があった。"わうどうの伊佐男"との因縁は一体どうなるのかとハラハラ。息子は野壺(肥溜め)にドボン。さらに嫉妬で癇癪持ちぶりを発揮してどよーんと。今回の熊吾は反省が多かった。彼は関わる人物たちの死を目にすることで感傷的になっている自分に気付く。それが自らを奮い立たせることになり新たな決断を導いた。この先がまた気になってしょうがない。2019/09/06