内容説明
敗戦から2年目、裸一貫になった松坂熊吾は、大阪の闇市で松坂商会の再起をはかるが、折も折、妻の房江に、諦めていた子宝が授かった。「お前が20歳になるまでは絶対に死なん」熊吾は伸仁を溺愛し、その一方で、この理不尽で我侭で好色な男の周辺には、幾多の波瀾が持ち上った。父と子、母と子の関係を軸に、個性的な人間たちの有為転変を力強い筆致で描く、著者畢生の大作第一部。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ミカママ
461
「ついに完結」の知らせを聴き、2019年はあたためていたこちらのシリーズを完読、の予定がフライングで大晦日に読了。しょっぱなから苦手なシーン続出で、並の作家さんならとうに投げ出している内容、輝やんの気迫と執念に押されて読まされてしまった。思うところはあるが、おいおい読んでいこうと思う。【動物虐待・婦女子へのDVアリ】 2018/12/31
KAZOO
174
むかしはかなり宮本輝さんの小説にはまり込んだものでした。ただしこの流転の海は単行本のときから読んでおらず、この新潮文庫で読み始めることにしました。全9巻になるとのことですが最初のときには5巻で終了する予定になっていたそうです。30年以上も書き継がれているある意味自伝的小説ということで、かなりこの父親像が面白く具体的に書かれています。親子の物語ということですが、当面は父親が中心なのでしょう。いままで宮本さんの小説というと最近は比較的軽めというかあっさりした感じでしたが、「川三部作」の頃に戻った感じがいます。2017/03/10
新地学@児童書病発動中
134
傑作。400ページを超える長編だが一気に読める。戦争ですべてを失った松坂熊吾が大阪の闇市からもう一度自分事業を叩き上げていく。わがままで好色で、それでいて律義で情にもろい熊吾の人物造形が素晴らしく、読者は熊吾に引っ張られる形で物語の中に引き込まれていく。熊吾は人間としては欠点が多い人物なのだが、五十で授かった子供の伸仁に愛情をたっぷり注ぐといった優しさも持ち合わせている。熊吾が伸仁を可愛がる場面は本書の白眉の一つで、読んでいて胸が熱くなった。(コメント欄へ続きます。)2015/03/12
遥かなる想い
123
宮本輝が父を描くということから読み始めた。1部は良い。ただし、その後が長い。もう少し早く出して欲しかった。2010/04/28
33 kouch
112
著者の父がモデル、松坂熊吾の人生記。戦後の混乱期をつき抜ける豪胆さと、一方で哲学者のような冷静な観察眼、思慮深さも併せ持っている。ビジネスの相手の本性を見抜く。女性の奥にある悲しみに寄添う。米露や共産主義の行く末も語る。豪快、破天荒な熊吾だが、それに振り回される周囲の人たちも負けないくらい破天荒。特に女性。生きるために必死な、人間と人間の純粋な触れ合いを感じる。ときに笑え、ときに涙が出そうになる。Audibleでなんとなく聞くのにちょうどよい。ジョギングのお供になる聞きやすいシリーズ。2024/02/11