内容説明
自分は少女誘拐監禁事件の被害者だったという驚くべき手記を残して、作家が消えた。黒く汚れた男の爪、饐えた臭い、含んだ水の鉄錆の味。性と暴力の気配が満ちる密室で、少女が夜毎に育てた毒の夢と男の欲望とが交錯する。誰にも明かされない真実をめぐって少女に注がれた隠微な視線、幾重にも重なり合った虚構と現実の姿を、独創的なリアリズムを駆使して描出した傑作長編。柴田錬三郎賞受賞作。
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乱読太郎の積んでる本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
708
実によくできた小説。最初と最後を夫の手紙で挟み込む構成も効果的。とりわけ後者には読者にとっての驚きも用意されていて、そのあたりはちょっとプリーストリーの『夜の訪問者』を想起させる。ここには何種類かの歪んだ対幻想の姿が描かれる。もちろん中心をなすのは景子と健治との間の対幻想だが、谷田部との、そして検事の宮坂とのそれも複雑に絡み合ってくる。吉本隆明の言う対幻想とは、まさに互いの想像力の果てに醸成されるものに他ならないからだ。読み進めていくほどに読者を混沌の中に彷徨わせるのだが、それこそが本書の価値なのである。2018/03/26
青乃108号
256
失踪した小説家が残した原稿。事実であるのは著者自身が小学4年生の時に男に誘拐され一年間監禁されていた事のみ。それ以外の記述は現実なのか虚構なのかはっきりしない。男との監禁生活の中で何があったのか、最後に夫の手記が付されているが謎は解明されないまま小説家の行方もわからないまま。読者の想像をたくましくさせる小説である。「残虐記」というタイトル。興味をひかれて読んでしまった俺も、実は作中度々登場する「性的人間」ではなかったのか。読み手ををも巻き込んでしまう恐ろしい物語。深追いはしない方が良さそうなのでこの辺で。2024/07/15
ehirano1
198
開幕から有無を言わさず引き込まされ、圧倒されまくっているうちにエンディングを迎えてしまいました・・・(苦笑)。当方には凄すぎます。またもや碌な感想が書けません。2018/04/14
アッシュ姉
104
自分は少女誘拐監禁事件の被害者だったという驚くべき手記を残して失踪した作家。残虐がほとばしる手記から発せられるただならぬ緊迫感に読み進めるのが怖かった。想像を絶する監禁生活、解放されてからも際限なく続く苦痛。行き場のない憤怒、消えることのない喪失感、終わりのない絶望が、迫力のある筆致でこれでもかと襲ってくる。一体何が待ち受けているのかと恐れていたが、明確な答えを求めて読むのではなく、想像を絶やさず毒を育てながら挑まなければならない桐野作品だと気づく。気力を振り絞っていつの日かまた対峙したい。2018/01/29
takaC
104
読み方次第かもしれないが結構難解。『グロテスク』や『魂萌え!』よりはこちらの方が面白い。2017/10/10
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