内容説明
幼い日、会社勤めをしながら、男手ひとつで子育てに奮闘した父。夜なべで幼稚園の手提袋を縫い、運動会のためにのり巻を作ってくれた姿。育ての母を迎え、親子三人が川の字になってテレビを見ながら寝た夜。そして、娘の心に深く刻まれた「あいさつは基本」「自慢はしない」「普通が一番」という教え。やさしいけれどカタムチョ(頑固)な父・藤沢周平の素顔を、愛娘が暖かい筆致で綴る。
目次
男手ひとつ父の奮闘(二冊のアルバム;保育園の連絡帳 ほか)
父と母のいる家庭の幸せ(七五三と新しい母;下町育ちの母 ほか)
私の転機父の一言(人並みの人間に;私の進路 ほか)
作家・藤沢周平(直木賞受賞の前後;父のスケジュール ほか)
家族の情景(東京の空っ風;三度の引越し ほか)
著者等紹介
遠藤展子[エンドウノブコ]
1963(昭和38)年、東京生れ。時代小説作家・藤沢周平(本名・小菅留治)の一人娘。生後八カ月で母を病気で失い、父の再婚により、六歳頃から育ての母との生活が始まる。都立高校卒業後、百貨店に勤務。’88年に結婚し、遠藤姓となる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ミカママ
509
氏の作品がますます好きになった。夜なべして幼稚園バッグを手縫いする姿には、娘じゃなくても泣ける。「驕らず・威張らず・普通であれ」をモットーとしたという氏のお嬢さんから見た「父」。彼が遺した文献に支えられ、その卓越した記憶力と(父親譲りの)読みやすい文章で綴られていく。忘れてはいけない、後妻さん(という言葉は嫌いだが)の存在。特に後半は、彼女ありきの著作であったようにも思える。幸い未読作品も多いので、今作を足がかりに残りの未読作品を楽しむことにしよう。いつか記念館も訪れてみたい。2022/09/21
あすなろ
110
カタムチョという山形庄内弁が各所に出てくる本。偏屈者、ヘソ曲がり、片意地な人といった意味らしい。これが藤沢周平氏を家庭内から娘として見た時の言葉らしい。藤沢氏のご経歴、執筆活動とその生活の様、そして家庭人としての顔を知れる。当然ファンの方には必須の一冊であるが、良い意味で極めて凡庸を愛されて貫く事に努められたという印象を持った。解説の児玉清氏も書かれているが、専業作家となる前後、書斎なぞなく妻子は遠慮して静かに読書する中、座布団一枚で原稿をそこで書かれていた様がその人ととなりや家庭の様を象徴的にしている。2022/02/19
じいじ
99
大好きな作家は誰? と訊かれれば、私は躊躇わず「藤沢周平」と答えます。その周平さんの一粒種の展子さんが、没後10年後に「大好きだった父親に、恩返しの気持をこめて」書かれた父親との想い出です。氏の小説からは知り得なかった「素顔の藤沢周平」を垣間見ることが出来て面白かった。愛妻を、長女出産8ケ月後に癌で亡くした。その後の周平さんの子煩悩ぶりは想像を超えています。夜鍋して、弁当を入れる手提げ袋を懸命に作る姿にはジーンと来ました。やさしい二人のお母さんをもつ展子さんが綴った「亡き父・藤沢周平」を愉しく読みました。2022/09/28
かわうそ
78
★★☆☆☆人間藤沢周平を見ることができた。藤沢周平はかなりの親バカだ笑。父は虫とり名人では娘の部屋で虫が出ると、必ず藤沢周平が両手を丸くして、両方の手でふわっと包みこむように虫を捕まえます。そして、雨戸を開けて逃す。決して虫を殺さなかったという。さらに娘が虫を見つけるまで出ないでというと藤沢周平は虫を見つけて外に出すまで部屋でずっと探していたという。娘を保育園に預けていた時、藤沢周平は仕事が終わると駅からものすごいスピードで迎えに来たという笑。2016/09/21
ルピナスさん
74
藤沢周平氏の作品が大好きな夫のために買った一冊。藤沢氏がお嬢さんが赤ちゃんのうちに奥様をなくし、家族の形を変えながらその存在を常に軸とし、お嬢さんの生活時間帯に合わせ作家活動を行なっていた努力に本当に胸が熱くなった。背広生地を使って幼稚園の手提げ鞄を夜鍋で作ってあげた事、狭い自宅で藤沢氏が作品を創作中、奥様とお嬢さんは座布団を横に敷いて図書館で借りた本を読んでいた事等、何気ない日常に互いの愛情が満ち溢れていて、だからこそファンを惹きつけてやまないのだと改めて藤沢氏の偉大さを静かに感じ入った一冊だった。2023/05/31