内容説明
京都に生まれ育った奥沢家の三姉妹。長女の綾香はのんびり屋だが、結婚に焦りを感じるお年頃。負けず嫌いの次女、羽依は、入社したばかりの会社で恋愛ざたといけず撃退に忙しい。そして大学院に通う三女の凛は、家族には内緒で新天地を夢見ていた。春の柔らかな空、祇園祭の宵、大文字焼きの経の声、紅葉の山々、夜の嵐山に降る雪。三姉妹の揺れる思いを、京の四季が包みこむ、愛おしい物語。
著者等紹介
綿矢りさ[ワタヤリサ]
1984(昭和59)年京都府生れ。2001(平成13)年『インストール』で文藝賞受賞。早稲田大学在学中の’04年『蹴りたい背中』で芥川賞受賞。’12年『かわいそうだね?』で大江健三郎賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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さてさて
329
『少し高いところから見ると本当に街全体が山に埋もれているみたい』という京都の街を『手のひらに乗っているよう』とおっしゃる綿矢さん。京都の街、言葉、習慣についての描写が単なる物語の背景でなく物語と一体化して伝わってくるこの作品。そして、年代の微妙に離れた三人姉妹がそれぞれに思い悩む一方で、お互いのことを深く思いやる、そんな姉妹の細やかな感情の機微を感じるこの作品。三人姉妹それぞれの目から見える京都の街を通して、京都に始まり京都に終わるという位に、京都を、そして綿矢さんの京都愛を強く感じた、そんな作品でした。2021/10/02
エドワード
220
京都に関する作品は読まずにいられない。森見登美彦、井上章一。みんな、本当のことを書いている。本作も、街の距離感、京都弁、四季の移ろいと年中行事、全てが地に足が着いている。ああ、本物だ、これが京都だ、と実感する。三女の凛が「好きやからこそ一旦離れたい。外側から京都を眺めたい。」と言うセリフ、数十年前の私のものだ。故郷を一度も離れたことのない人間の、視野の狭い郷土愛には時々お手上げになる。千年の都は特に、だね。夜が早い小さな盆地、いけずを伝統芸能と表現する客観性が大切。二つの都を知る凛の物語を待っているよ。2019/04/07
yoshida
156
京都に住む三姉妹を描く。綿矢りさ版の「細雪」か。綾香、羽依、凛の三姉妹のそれぞれの悩みや日常。京都の「いけず」にも具体的に知れて興味深い。華やかな中に勝ち気のある羽依。羽依は同僚のいけずや、粘着質な元彼の前原へ啖呵を切る。自分の中の勇気を振り絞る姿と、その後の悩む羽依の様子がヒリヒリするほどリアルさがあった。強気でも傲慢でもなく、勇気を振り絞っただけ。だが周囲の人からは引かれることもある。本当に理解して欲しい人が離れることもある。その切なさ。私の中に共通する部分もあり最も共感した。三姉妹の魅力溢れる作品。2020/11/21
mukimi
140
ああ巧い。やはり好き。ただ本作には綿矢作品を絶品たらしめる、ひねくれ女子のトゲや毒の内面描写が少なかった気がする。甘い恋愛シーンは完璧すぎて拍子抜けするほど。以前筆者のインタビューで、基礎研究室を作品に描くため取材した際に出会った研究者が今のご主人だと読んだことがある。基礎研究室で働く登場人物の出てくる本作のための取材が筆者の運命の出会いを引き寄せたのかもしれない。だから本作を書いた時の筆者はとても甘い幸せの絶頂だったのかもしれないとファンは深読み。本作のモチーフとも言われる谷崎潤一郎細雪も是非読みたい…2021/09/17
ykmmr (^_^)
138
同じ学年の彼女の作品。芥川賞を取った時は衝撃的で、いくつか彼女の作品を読んだ。この作品、まずは、綿矢版』細雪』だが、私は、『古都』の印象も持った。解説にも同じように書いてあって、何だか嬉しかったが、『京都』の日本の文化の象徴でありながらも、独特で閉じ籠った場所であり、そこに住む三姉妹の一家も「京都を愛するがゆえ。」に、それぞれ「自分の生き方」を迷っている。『細雪』や『古都』と同じ、その時代の在り方と美しき『京都』をバランスよく表現している。最後に一言、凛が東京に出れて良かった。2021/06/29