出版社内容情報
藤沢作品を愛するすべての人へ――。故郷への思い、時代小説作法。エッセイだからこそ伝わる、作家の本当の心。
「ふるさとへ廻る六部(巡礼)は気の弱り」これは、山形出身の著者が初めて青森、秋田、岩手へ旅したときの気持を、やや自嘲的に表現した古川柳。だが、言葉とはうらはらに、この旅は東北人である自分の根を再確認する旅だった。――庄内地方への郷愁、変貌する故郷への喪失感、時代小説へのこだわりと自負、創作の秘密、そして身辺・自伝随想等を収めた文庫オリジナル・エッセイ集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
じいじ
78
これまで知らなかった藤沢周平さんのこと、その人柄が滲み出ていて凄く面白かった。読了して藤沢周平がさらに好きになりました。いくつかご紹介しましょう。武将・織田信長が嫌いなだそうです。何故?は、このエッセイに詳しく書いてありますので…。周平さん、プロ作家に一本立ちしてからは、山本周五郎の小説を読まなくなった、いや読めなくなったそうです。その気持ち、少しわかるような気がします。周平さんは、かなりの愛煙家だったようです。原稿締切日で追い込まれている日は60本越えだそうです……。面白いためになるお話満載でした。2024/07/30
優希
50
藤沢さんのエッセイ集になります。ふるさとへの想いや変貌する故郷の喪失感、時代小説へのこだわりなどが紡がれていました。藤沢さんは一本筋がある方だなと思わずにはいられません。その気持ちに惹かれて藤沢作品を読むのです。2023/04/06
モトラッド@積本消化中
35
[再読]★★★★ 自身の故郷や時代小説に対する自負、創作の秘密や身近な題材の随筆等々、作家藤沢周平を知るうえでも、絶好の読み物となるエッセイ集。各エッセイの終わりに、例えば(「朝日新聞」夕刊平成元年4月10日)と、それぞれ出典が記してあり、私の場合、先ずそれを確認してから読むという手順を踏みました。多岐にわたるテーマが、先生ならではの視点で語られるエッセイの数々。本当に読み応えがありました。あまねくお薦め致します。2019/10/06
タツ フカガワ
34
エッセイ集の再読。「何が苦痛かというと、書けども書けども小説が面白くならないのである。(略)こういうときに限って小説はなかなか終わらず~」という作品は名作『蝉しぐれ』(「新聞小説と私」より)。「池波さんが描いた世界、そして同じ方法でかける作家はもう現れないだろうと思う」(「池波さんの新しさ」より)という藤沢さんの池波正太郎論で、また鬼平を読みたくなりました。2022/01/03
キムチ
14
この表題、古い川柳の一部。人生の黄昏期においてめっぽう気が弱くなっていく、そんな心情を表すように思える。藤沢氏がエッセーとして綴った1冊、私の琴線にぐぐっと触れ、しっとり読み終えた。出身地が近いせいもあり、故郷を思う懐の深さにも大いに共感。海坂藩は言わずと知れた庄内藩がモデルだが種々の作品に登場する主人公と周囲の人々が来し方行く末を逡巡する場面で眺めている風景まで舞台効果を気配りしているのがよくわかる。藤沢氏の風貌は何かしら照れて恥ずかしげな笑顔が多いがこのエッセーにもそういったニュアンスがよく感じられた