出版社内容情報
昨夜の大雨で壊れた橋を見に、男が一人中州に来た。男は背後から「指は、あげましたよ」と、女の声を聞く。無人の場所でもちろん誰がいるわけでもない。男はきっと空耳だろうと捉えて川を見てみると、女枕がひとつ、川浪に揺れているのを見つけた。枕紙には何か文字が書いてある――「髪」だ。その枕を拾った男はやがて、とある女のことを思い出し・・・・・・。
内容説明
「指は、あげましたよ」背後から声が響いた。振り向いた時にはその声の主はいない。昨晩の豪雨で橋が流された中洲を見にやってきた彼は、芥もくたが漂った川で「黒髪」と書かれた女枕をすくいあげる。その途端に足元が崩れ、からだごと落ち込むところを中年女に助けられるのだが…。
著者等紹介
皆川博子[ミナガワヒロコ]
1930年旧朝鮮京城生まれ。73年に「アルカディアの夏」で第20回小説現代新人賞を受賞し、幅広いジャンルで創作を続ける。『壁―旅芝居殺人事件』で第38回日本推理作家協会賞(長編部門)、『恋紅』で第95回直木賞、『薔薇忌』で第3回柴田錬三郎賞、『死の泉』で第32回吉川英治文学賞など多くの賞を受賞。2025年には旭日中綬章を受賞するなど、第一線で活躍する(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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里愛乍
31
いつか手に入れたいと思っていた本、『ゆめこ縮緬』。その中の三編が100分名作となって再編集。特に記憶に残っている表題作を読み出すと同時にすっかりこの耽美な世界に文体に酔いしれる。怖いというものではないけれど、このくらくらと気持ちの定まらない感じ、まさに晩夏の茹だりが神経に纏わりつくような。実にいい時期に読み終えた。この夏は幻覚を見てもおかしくないほどの暑さでしたが、幻想に浸るのはここでお終いといたしましょうか…2025/08/31
ぐうぐう
30
揺らぐから妖しいのか。妖しいから揺らぐのか。冥界は、思ったよりも近く、親しい。真実から遠ざかることで、と思いがちだし、思いたくもなるのだが、実際のところはその逆で、真実に近付いてしまうことで、揺らぎは増し、妖しさは濃くなっていく。そのことに気付く皆川博子は、文体によって読者を絡め取り、だが引き摺り込むのではなく、やがて読者の意思を待って、扉を開放するのみだ。「九百九十九匹集めて、あと一匹というときに、冬になってしまって山には雪。玉虫はもう、どこにもいない。(つづく)2025/07/25
混沌工房
11
『100分間で楽しむ名作小説』シリーズってもう亡くなった作家の近代文学ばっかとりあげているのかと思ってた。本書は『文月の使者』『玉虫抄』『ゆめこ縮緬』の三作を収録。上野リチさんの装画が美しいものの、このページ数でいいお値段するなーと逡巡していたら、思いがけないところからお借りできた。舞台はどれも戦前?…幻想的で、美しいけれど妖しくて残酷で…文章が綺麗。元の『ゆめこ縮緬』、ちゃんと読みたいな。2025/09/11
黒猫堂▽・w・▽
4
皆川博子さん「文月の使者」100分で楽しむ名作小説のシリーズ、読了。橋を越えた先にある中州には現世と常世の境も淡い町がありそこを訪う人を狂わせる…。幻想的な恐怖小説が3作。いずれの文章も格調高く味わい深い2025/09/13
いると
3
短い話を3篇集めた本。何度か読んだことのあるはなしだけれど、やはり皆川さんは良い。中洲のものがたりだけあってひんやりとした仄暗さとあやしさがあって、短くとも堪能できた。2025/08/02