出版社内容情報
昨夜の大雨で壊れた橋を見に、男が一人中州に来た。男は背後から「指は、あげましたよ」と、女の声を聞く。無人の場所でもちろん誰がいるわけでもない。男はきっと空耳だろうと捉えて川を見てみると、女枕がひとつ、川浪に揺れているのを見つけた。枕紙には何か文字が書いてある――「髪」だ。その枕を拾った男はやがて、とある女のことを思い出し・・・・・・。
内容説明
「指は、あげましたよ」背後から声が響いた。振り向いた時にはその声の主はいない。昨晩の豪雨で橋が流された中洲を見にやってきた彼は、芥もくたが漂った川で「黒髪」と書かれた女枕をすくいあげる。その途端に足元が崩れ、からだごと落ち込むところを中年女に助けられるのだが…。
著者等紹介
皆川博子[ミナガワヒロコ]
1930年旧朝鮮京城生まれ。73年に「アルカディアの夏」で第20回小説現代新人賞を受賞し、幅広いジャンルで創作を続ける。『壁―旅芝居殺人事件』で第38回日本推理作家協会賞(長編部門)、『恋紅』で第95回直木賞、『薔薇忌』で第3回柴田錬三郎賞、『死の泉』で第32回吉川英治文学賞など多くの賞を受賞。2025年には旭日中綬章を受賞するなど、第一線で活躍する(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ぐうぐう
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揺らぐから妖しいのか。妖しいから揺らぐのか。冥界は、思ったよりも近く、親しい。真実から遠ざかることで、と思いがちだし、思いたくもなるのだが、実際のところはその逆で、真実に近付いてしまうことで、揺らぎは増し、妖しさは濃くなっていく。そのことに気付く皆川博子は、文体によって読者を絡め取り、だが引き摺り込むのではなく、やがて読者の意思を待って、扉を開放するのみだ。「九百九十九匹集めて、あと一匹というときに、冬になってしまって山には雪。玉虫はもう、どこにもいない。(つづく)2025/07/25