内容説明
竪川に上った不審な水死人の素姓を洗って、聞きこみを続ける伊之助の前にくり広げられる江戸の町人たちの人生模様―。そして、闇に跳梁する謎の殺人鬼による、第二、第三の殺人―。伊之助の孤独な探索は、大店の主人や寺僧たちの悪と欲の世界を明るみに出すが…。元は凄腕の岡っ引、今は版木彫り職人の伊之助を主人公とする、絶妙の大江戸ハードボイルド。シリーズ第二弾。
著者等紹介
藤沢周平[フジサワシュウヘイ]
1927‐1997。山形県生れ。山形師範卒業後、結核を発病。上京して五年間の闘病生活をおくる。’71(昭和46)年、「溟い海」でオール読物新人賞を、’73年、「暗殺の年輪」で直木賞を受賞。時代小説作家として、武家もの、市井ものから、歴史小説、伝記小説まで幅広く活躍。『用心棒日月抄』シリーズ、『密謀』、『白き瓶』(吉川英治賞)、『市塵』(芸術選奨文部大臣賞)など、作品多数
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感想・レビュー
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yoshida
115
彫師伊之助シリーズ第二弾。なかなか重厚な展開。石塚の依頼で殺された男の素性を洗う伊之助。とある商家と寺の繋がりが浮かぶ。そこで行われていた密事。藤沢周平さんの作品では珍しいハードボイルドの味わいがある。ラストの石塚の様子に藤沢周平さんの作品らしさを見る。重厚な雰囲気は好みが分かれると思う。命を狙われる伊之助。得体の知れない相手への緊迫感。迫真の描写に息を呑む。ここまで来ると伊之助も捕物から足を洗うことは難しいだろう。伊之助が潜入に向かう夜。その漆黒の夜の描写が、とても印象に残った。次巻も読まねば。佳作。2021/11/06
じいじ
110
藤沢さんには珍しい捕物帳シリーズ第2弾、もっと早く読むべきだった、と今になって悔いています。主人公は、もう今更失うべき親も妻子もいない彫物師・伊之助。昔とった杵柄、頼まれると嫌と言えない岡っ引き稼業でひと肌脱ぐことに…。今作では、江戸の町に恐怖の殺人鬼が現れます。つぎつぎに三人もの死人が、同一手口による同一犯人か…? いつの世も悪事の陰に女あり? オトコとオンナの色恋の機微がほどよく散りばめられた藤沢さんの捕物帳、面白く読み終えました。2022/01/23
タイ子
97
まず冒頭の文章に惹かれる。「若葉の梢は風が吹き過ぎるたびにいたずらを仕掛けられた小娘のように大げさにさわいで日の光をはじく」。そして、今回も版木彫り職人・伊之助が昔取った杵柄で殺人事件の真相に挑む。岡っ引きを辞めても昔の凄腕を知る同心から頼まれると好奇心も多分にあり断れない。ただ、仕事場の親方をこんなに怒らせていいのかとこっちが心配してしまうわ。遅刻はするわ、早退はするわ、理由を告げない勝手な行動は普通ならクビだと思うけど。根は善良なんだな、親方って。第2弾も謎深き事件にどっぷり浸らせていただきました。2022/02/07
おしゃべりメガネ
87
ハードボイルド時代小説「伊之助」シリーズ第2弾です。本作は前作の半分近いボリュームダウンでしたが、逆にそのボリュームの少なさが良かったかもしれません。謎に発生した連続殺人の真相を暴きにかかる「伊之助」はやっぱりオトコマエですね。「おまさ」との距離感もいい感じになっており、少しは安心して読んでいけます。相変わらず「伊之助」は推理もさることながら、立ち回りも天下一品で、ますます魅力が際立ってます。悲しい境遇にある女性にさりげない優しさをみせる「伊之助」がやっぱりハードボイルドで次読むのが更に楽しみですね。2025/04/07
さつき
87
前作は失踪した女を探すお話しでしたが、今回探るのは死体の身元、その来し方。対象の男がもう亡くなっている分、前よりもいっそうハードボイルド感がありました。一癖ありそうな人物への聞き込みや暗闇での死闘に手に汗握りました。次作も楽しみです。2020/01/25