出版社内容情報
版木彫り職人の伊之助は、元凄腕の岡っ引。逃げた女房が男と心中して以来、浮かない日を送っていたが、弥八親分から娘のおようが失踪したと告げられて、重い腰を上げた。おようの行方を追う先々で起こる怪事件。その裏に、材木商高麗屋と作事奉行の黒いつながりが浮かびあがってきた……。時代小説の名手・藤沢周平が初めて挑んだ、新趣向の捕物帖――シリーズ第一作!
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ミカママ
506
藤沢周平氏の捕り物帖。主人公伊之助は、岡っ引きの経験はあれども、今は町場の彫り物職人。かつての上司に頼まれ、突然いなくなった上司の娘を探すことに。とはいえ十手や札は使わず、一匹狼の伊之助、あちこち怪我も負いながらぐいぐい真相へと近づいていく。伊之助自身の恋模様、やり手の材木屋とそのおかみの隠れた趣味…。文章の上手さの中に、読者を夢中ににさせる何かが潜む、シリーズ三作。残念ながら手元には続編がない(泣)。2022/06/23
yoshida
134
藤沢周平さんの長編作品。版木彫り職人として浮かぬ日々を過ごす伊之助。だが彼はかつて辣腕の岡っ引だった。かつて世話になった弥八親分から失踪した娘の捜索を依頼されす伊之助。ひとりの娘の失踪は背後に複雑な闇があった。時に中盤以降はページを捲る手が止まらない。急速に発展した商家の闇。序盤からは想像がつかない展開に唸る。また、伊之助とおまさの関係も人情があり読ませる。時代物でも実にハードボイルドな作品だと思う。伊之助は武家ではないので刀ではなく、柔を駆使する姿が獄医立花登シリーズを思い出させる。安定の藤沢周平作品。2020/12/26
佐々陽太朗(K.Tsubota)
115
イイ! すごくイイ!! なにがイイかといえば、ハードボイルド臭プンプンしているところがイイのだ。主人公伊之助の(酒にも女にも)ストイックな態度、心に持つ哀しみの影、揺るぎない強さがイイ。この強さはけっして勇猛果敢の類いではない。危険に際して敏感でむしろ用心してかかる。しかし、ここ一番対決せねばならぬとあっては腹を据え、絶体絶命の局面では命をかけてみせる勇気を持つ、そうした強さである。幼なじみのおまさでなくても惚れようというもの。 第二作『漆黒の霧の中で』を読むのが楽しみである。2018/11/10
じいじ
108
藤沢周平が挑むミステリー捕物帳は、なかなかイケます、面白いです。版木彫師と岡っ引きの二足の草鞋の主人公・伊之助のキャラクターつくりに、著者の新しい分野に挑む工夫と苦心が作品から感じ取れます。その伊之助に思いを寄せる飯屋の女おまさ、一方、妻に先立たれてから、女への臆病風に吹かれる伊之助は「二度と女と所帯は持つまい…」ときめている。「妻先立って身体をのばしたとき、形のいい胸のふくらみと……」ところどころ見せる藤沢さんの何気ない女性の描写は、とても色気を感じて一服の清涼剤になります。シリーズ次作が愉しみです。2022/01/03
タイ子
97
アメリカ版ハードボイルドとかって解説されていますが、確かに主人公は一匹狼の影のある私立探偵ぽさも漂わせている。版木彫師の伊之助、元凄腕の岡っ引き。過去に妻が他の男と心中したことが心にわだかまり安寧の日々は訪れず。そこに昔世話になった親分から娘の行方を捜して欲しいとの依頼が。身の危険を顧みず探索をする伊之助がカッコいい。好きな女に正面からぶつかれず、けど負傷した時にはうわ言で呼んでしまう。男女の機微をなんて巧く書くんだろう。アクション、サスペンス、江戸の町に違和感なく描かれる藤沢流捕り物帖。シリーズ第一弾。2022/01/30