内容説明
富山は、ある事件がもとで心を閉ざし、大学を休学して海の側の街でコンビニバイトをしながら一人暮らしを始めた。バイトリーダーでネットの「歌い手」の鹿沢、同じラジオ好きの風変りな少女佐古田、ワケありの旧友永川と交流するうちに、色を失った世界が蘇っていく。実在の深夜ラジオ番組を織り込み、夜の中で彷徨う若者たちの孤独と繋がりを暖かく描いた青春小説の傑作。山本周五郎賞受賞作。
著者等紹介
佐藤多佳子[サトウタカコ]
1962(昭和37)年、東京生れ。青山学院大学文学部卒業。’89(平成元)年「サマータイム」で月刊MOE童話大賞受賞。『イグアナくんのおじゃまな毎日』で’98年度日本児童文学者協会賞、路傍の石文学賞を受賞。『一瞬の風になれ』で2007年に本屋大賞、吉川英治文学新人賞、『明るい夜に出かけて』で’17年に山本周五郎賞を受賞した(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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柊文庫本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
さてさて
292
物理的には暗いはずの夜。そんな夜に明るさを見出す人がいる。心の拠り所をどこに求めるかは人それぞれです。誰にも心の拠り所はあるはずです。そんな心の拠り所が照らし続ける光は、それが例え他の人から見て儚いものであったとしても、その人にとってはかけがえのない、人生の行く先を照らし続けるものだということもあるのだと思います。ゆらゆらとぼんやりとした、それでいて沢山の可能性を秘めた青春の灯火の中に富山の未来が確かに照らされている、そんな光景を結末に見る物語。暗いはずの夜に確かに明りが灯るのを感じた、そんな作品でした。2021/03/10
こーた
255
ラジオの人気が沸々と再燃しつつある、という記事をさいきんどこかで読んだ。この小説を読むと、その理由がよくわかる、とまではいわないけれど、何かナットクできるような気がする。同時代の孤独と、ゆるやかな連繫。終始〈俺〉のひとり語りで進行するナラティヴ(文体)は少々とっ突きにくいが、百頁くらい読んで慣れてくると、これ以外の語りはありえないのでは、とおもえてくる。口承芸能、浄瑠璃や落語に似たリズムを、現代の若者言葉でやっている。これ今で云うと何だ、と考えたが何のことはない、この語り自体がラジオそのものなのだ。⇒2020/10/27
へくとぱすかる
229
深夜ラジオを舞台のホリゾントのように据えて、コンビニのアルバイトの日常生活を描きながら、そこに年齢の近い者どうしがつながっていくありさまを重ねていく。正直に言うと、パーソナリティを知らなかったので、小説の設定上の存在だと思っていて大変驚きました。夜にラジオを聞かなくなって長いもので……。鹿沢くんが予想よりも大きな存在。いい友人です。佐古田とは恋愛まで行かないのが、ありがちな話を回避していて、物語をリアルにしていて良い。過去の修復と同時に今を過ごし新しく生きる術を見つけていく。紹介どおりの暖かな世界でした。2020/05/30
エドワード
197
まずは同い年である佐藤多佳子さんの若者言葉の完璧さに脱帽。ここまで書くとこれは全世代に届くね。深夜のコンビニで働く富山を中心に、先輩バイトの鹿沢、同級生の永川、毎日現れる女子高生・佐古田。みな悩みを抱えていて、孤独だ。佐古田のキャラのつきぬけ感がすごい。実在の深夜ラジオとツィッターを駆使してコミュニケーションしながら、かえって孤独感が増す様がリアルだ。ラジオネームという別人格の使い方が上手い。鹿沢の音楽、佐古田の演劇、四人の共感、ラジオ番組の行く末とも相まって幸福な終幕。「明るい夜に出かけて」いい題だ。2019/05/04
のいじぃ
195
読了。深夜のラジオが繋ぐ人の縁と挫折からの一歩。とは言え実際はアルコ&ピースのANNへの情熱を作者が若者を通して綴っている物語。そのためラジオの紹介は饒舌なのにこちら側の物語は中途半端というかバラバラな印象。何より彼視点の文章に共感が持てず、そんな中で見知らぬ土地を延々と語られても目が滑り、彼女の登場で少し面白くなったかと思えばサブカル持ち込みの彼持ち上げ、実は凄いハガキ職人でした、果てはYouTuberの脚本家のような才能をチラつかせ日常に戻っていく、とまるでラジオの無茶苦茶さを表現しているような一冊。2019/11/11