内容説明
古書店で手にした一冊の本に書き込まれていた言葉。公衆電話で演じられた人生の一場。深夜にタクシー・ドライバーと交わした奇妙な会話。…エピソードの断片はさらなるエピソードを呼び寄せ、あたかもチェーン・スモークのように連鎖しながらひとつの世界を形づくる―。同時代人への濃やかな共感とともに都会の息遣いを伝え、極上の短篇小説を思わせる味わいのエッセイ15篇。
目次
鳥でもなく魚でもなく
逆転、逆転、また逆転
老いすぎて
タクシー・ドライバー東京篇
君だけが知っている
わたしに似た人
メランコリーの妙薬
走らない男
アフリカ大使館を探せ
赤や緑や青や黄や〔ほか〕
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
kinkin
55
どのエピソードもついつい引き込まれる内容だ。タクシードライバーの男の話、走らない男、シナイの国からの亡命者がよかった。シナイの国から・・・にあった「教養のためしてはならない百箇条」に書かれていたこんなコトバ自分は皆とは違う、という気持ちを忘れない、結局は自分も皆と同じだ、という判断を忘れない。自分とは違うものが、違うことが、あることを、忘れない。どんなときにも含羞を忘れない」沢木耕太郎のコトバではないが、これは沁みた。鳥類人間と魚類人間の話も。私は魚類人間だ・・・2015/03/11
眠る山猫屋
49
煙草を吸わない沢木さんが物語る、ささやかにして遠くを視るようなエッセイ。公衆電話の重要性、タクシーでの偶然など、映画を切り口に語る淡々とした文章は時代を感じさせてくれて、なんだか心に沁みる。携帯がない時代、公衆電話(特に真夜中)は必要な場所だったよね?他人に聞かれても話さなければならない時とか・・・。他にも現役時間の短いボクサーと語り部たる記者の幸せを比する逸話も残る。『深夜特急』『一瞬の夏』を読み返したくなった。2021/03/06
Y2K☮
39
再読。棚橋弘至が「何だかんだで女性ウケの一番いい服は爽やかな白いワイシャツ」と云っていたのを思い出す。沢木さんの文章だけが醸し出す飾らぬ魅力はまさにそれ。初読時には知らなかったパーカーやカポーティ、ハメットらに関する考察に惹き込まれ、本と共に長い旅をしてきたなと思い、直後の「懐かしむには早すぎる」という一言に気を引き締める。まるで過去現在未来の交差するジャンクション。旅が、空港が、書店が、そして人々の集うあらゆる場所がそうである様に。何か読みたいけど何を読んだらいいか分からないという方、ぜひこれをどうぞ。2017/08/16
背番号10@せばてん。
36
1996年5月15日読了。沢木氏は私にとって、エッセイの神。(新年 なんちゃって登録初め。2020年1月5日入力)1996/05/15
踊る猫
27
実に巧いな、と唸る。沢木耕太郎のことはずっと旅行記とノンフィクションの人だとしか意識していなかった私が最初にこの本を手にしたのはいつのことだっただろうか。今に至るまで折に触れて読み返してきて、どの時の読書もきっちりその節度ある筆致で楽しませてもらったことを思い出す。エンターテイメントというか、一種のアトラクションよろしく技芸を「さり気なく」見せているところが面白いと思う。自分自身の人生の転換期にあるからか、沢木が見てきた光景や出会った人たちの逸話が身に沁みる。自分自身の生活にも落とし込めるような話に出会う2023/04/01