内容説明
木々の枝や根の広がりは、まるで天と地とを結びつける宇宙の軸のようだ―そう語る著者は信州で多感な少年時代を過ごし、文学を志してからは、幾度となくドイツやヨーロッパ各地を旅してきた。見慣れた木々も異国で出会うと新鮮で、驚きや感動を呼び起こす。木への深い愛着を、旅の想い出と重ねながら綴った日本エッセイスト・クラブ賞受賞作。著者撮影による木々の写真も多数収録。
目次
春―光(ハイデルベルクの森;新緑のブナ林;「もっと光を」 ほか)
夏―空(ポプラの木;フィレンツェの石橋;白鳥の城 ほか)
秋―水(イチイの木;水郷のニレの木;異郷の落葉松 ほか)
冬―土(ああ、樅の木;ドイツのカシワ;やなぎの木 ほか)
著者等紹介
小塩節[オシオタカシ]
1931(昭和6)年長崎県生れ。東大独文科卒。ドイツ文学者。専攻はドイツ古典主義文学。現在、フェリス女学院学院長、中央大学名誉教授。教鞭をとる傍ら、これまで駐ドイツ日本国大使館公使、ケルン日本文化会館館長、国際交流基金理事などを歴任した。ケルン大学名誉文学博士
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感想・レビュー
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練りようかん
11
日本エッセイスト・クラブ賞きっかけ。杉並区のご自宅近くや文化外交活動で滞在したヨーロッパ、とりわけドイツと若かりし頃過ごした長野の木々が、季節や見ている景色に絡めて語られる。まろやかな表現力と体感の濃度の高さが魅力的、冷気と清々しさを伝える写真が想像を膨らませた。ドイツの花々がきりりと咲くあり方に、信州のそれと共通点を感じるのが興味深い。最も印象的なのはアウシュビッツからの帰り道、特有の香りで目線を上げ落葉松のやさしい明るさに癒される場面だ。梢や枝の間を抜ける風と光が心も通るよう、生命の救いが美しかった。2024/04/04