感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
内藤銀ねず
22
再読。何度読んでも打ちのめされる本。こう言っちゃ何ですが、漢詩は平面に漢字が並んでるだけのものですよ。日本語に読み下しても元の漢字を活かして読むからほとんど印象は変わらない。でも吉川博士の言葉がそこにくっつくと、あら不思議。たった一文字の漢字から世界が立ち上がってきます。この本はズバリ「愛」で出来ています。その愛は吉川博士の杜甫に対する愛、また杜甫の生きとし生けるものへの愛、さらにはこの本を求めてやまない読者の愛。kindleで読めるのを見つけて雀躍りしてしまいました。2021/10/23
内藤銀ねず
17
日本国における漢籍研究の碩学が杜甫をしゃぶりつくした名著。新潮文庫にとっても間違いなく名著の一つなのに、惜しいかな絶版。はっきり申し上げて、これを読んでない「杜甫読み」はニセモノです。単なる漢字の羅列から、どうやってこんなに豊穣な読みが生まれてくるのか、昔の学者さんは本当にすごい。それでもって学術的な著作かと言えばそうじゃなく解説じたいがすでに詩になってるのもステキ。2018/07/14
しずかな午後
8
中国文学者・吉川幸次郎が、詩聖・杜甫の詩を丁寧に読み解いていく。「九日藍田崔氏荘」について、酒に酔った杜甫が真っ赤な茱萸の実を手にとって見つめるところに、「それは「何かを発見したかのように嬉しがる」のでは無い。まことに何者かを、しかも酔中にいぬ時には発見し難い何物かを、真実に「発見した」のである」と言う。この部分が好きだ。また、杜甫の旅を「いつ魚雷を食うかわからない青函船に乗っての北海道行き」に喩えるところなど、戦前戦後の空気感が顔を覗かせるとことがあり、そこもちょっと面白かった。2023/04/07
もち
8
よかった。詩に対する見方が変わった。目から鱗だった。先生の本をたくさん読みたい。2016/05/13
ロビン
5
杜甫の小伝と、作品の解説などが収録された一冊。一つの単語や漢字に込められた意味の深さや、歴史的文脈からの用法の意義などを読んでいると、一つの詩を理解するのに必要な知識量や感受性の感度に圧倒され呆然としつつも不思議と癒される。吉川先生は偉大。 自然と社会と人間とを詩人の鋭敏な眼で見つめ続け、それを稀有の芸術に昇華しながらも、絶えず官吏としての社会貢献を夢見て憂愁を抱いていた至誠の人、杜甫の宇宙はあまりにも甚深にして広大である。 杜甫の全訳詩集を愛蔵しているが、ますます読了できない気がしてきてしまった。2019/04/03