出版社内容情報
小川 洋子[オガワ ヨウコ]
著・文・その他
内容説明
15歳のわたしは、高級レストランの裏手で出会った中年男と、不釣合いな逢瀬を重ねている。男の部屋でいつも感じる奇妙な視線の持ち主は?―「まぶた」。母のお気に入りの弟は背泳ぎの強化選手だったが、ある日突然左腕が耳に沿って伸ばした格好で固まってしまった―「バックストローク」など、現実と悪夢の間を揺れ動く不思議なリアリティで、読者の心をつかんで離さない8編を収録。
著者等紹介
小川洋子[オガワヨウコ]
1962(昭和37)年、岡山県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。’88年「揚羽蝶が壊れる時」で海燕新人文学賞を受賞。’91(平成3)年「妊娠カレンダー」で芥川賞受賞。2004年『博士の愛した数式』で読売文学賞、本屋大賞を受賞。翻訳された作品も多く、海外での評価も高い
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
280
表題作を含む8篇を収録した短篇集。ここでは、どの作品もかろうじて日常の空間に踏みとどまっている。だけど、そのもう少し先には異界が待ち構えているような危うさだ。異界の入口までは2歩、あるいは3歩か。表題作の「まぶた」は、文字通り"まぶた"に偏執した物語。フェティッシュの対象としてはきわめて珍しいながら、言われてみれば見事に衝いている感じもある。ここでの物語群は、たとえ光や青空が描かれていても、全体に暗くモノトーンが支配する。巻頭と巻末が暗く冷たいウイーンの物語であるのは、この作品集に統一を与えている。2012/09/17
mae.dat
270
独特の奇妙ながら緩やかな話からの急激なオチへの転換が激しい短篇集。8篇。安定の洋子さんワールドとも言えるし、洋子さんらしからぬとも言える。一体全体どっちなんだい問題。ぽいのは、日常っぽい非日常世界を描いていて。ぽくないのは、オチがね、振り幅はありながらも悍ましいきらいがあるよ。洋子さん版のホラーテイストなのかな。死生観なのかな。それを隔てるのものは『まぶた』と言う名の薄い皮膜なのね。2023/06/02
さてさて
260
『まぶた』は、私たちが”目”を使って見ようとする行為を遮る役割を果たします。そう、目の前に見えている世界を一瞬にして暗闇へと変える力を持つ『まぶた』。そんな暗闇の世界では、目ではなく想像力が暗闇に世界を描いていきます。『まぶた』とは、目で見るリアルな世界と、想像力が暗闇に描き出すファンタジーの世界を薄皮一枚で切り替える役割を果たしてもいます。そんな『まぶた』の如くリアルとファンタジーが紙一重に描かれるこの作品。同じ世界観の八つの短編から構成されたこの作品。小川洋子さんの魅力を堪能できる短編集の傑作でした。2022/02/14
ろくせい@やまもとかねよし
259
人々の幸せは唯一無二。時に単なる利己だと感じることも。結果を共有できない幸せ。しかし幸せを求める過程は共有できると感じさせた8つの幸せ。文章のみで形成する恋愛、光る野菜、目の病気を患うハムスター、ゴミも材料とする料理、匂いの収集、下がらなくなった左腕、無名な詩人の記念館、理不尽に破壊された父の医院。毎日降り積もる埃に「その確かさは、明日私がまだ生きていて、今日と同じように拭き掃除ができる確さに比べれば、何倍も強力」だと老婆が述べる。人々が抱く幸せには、仕様もない畏怖へ密やかに抗う美しさがあるのだろうか。2021/09/30
夢追人009
195
不可解な事象を体験しながらも人は誰も不幸だと認識しなければ十分に幸せなのだと感じさせてくれた小川洋子さんの心奪われる8編の物語。『飛行機で眠るのは難しい』嘘は己の内面を着飾る服で愛とも言えるでしょうね。『中国野菜の育て方』光る野菜と謎のおばあさん。『まぶた』少女はハムスターの二の舞から救われたのかもね。『お料理教室』一刻も早く帰りなさい!『匂いの収集』五体満足な内に逃げなさい!『バックストローク』弟よ!あなたを捨てたわけじゃない。『詩人の卵巣』さあ、眠りなさい。『リンデンバウム通りの双子』家族を大切にね。2019/04/30
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