内容説明
十八世紀のコルセットやレース、バレンシアガのコートにディオールのドレスまで、約一万点が眠る服飾美術館。ここの洋服補修士の纏子は、幼い頃の事件で男性恐怖症を抱えている。一方、デパート店員の芳も、男だけど女性服が好きというだけで傷ついた過去があった。デパートでの展示を機に出会った纏子と芳。でも二人を繋ぐ糸は遠い記憶の中にもあって…。洋服と、心の傷みに寄り添う物語。
著者等紹介
千早茜[チハヤアカネ]
1979(昭和54)年、北海道生れ。立命館大学卒業。幼少期をザンビアで過ごす。2008(平成20)年、小説すばる新人賞を受賞した『魚神』でデビュー。’09年、同作にて泉鏡花文学賞、’13年、『あとかた』で島清恋愛文学賞を受賞した(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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アッシュ姉
88
十八世紀の貴重な衣装からハイブランドにファストファッションまで、国や時代を越えてさまざまな服が大切に保存されている服飾美術館。洋服修復士や学芸員など知らない世界がとても興味深かった。はるか昔の服を完璧に直してしまうと当時の雰囲気が無くなってしまう。着ていた人の思いが消えないよう残しつつ絶妙な加減で修復していく。心の傷も無理に治そうとしなくていいんだよとそっと寄り添ってくれるような作品。千早さんの服への愛と知識の深さに感嘆。2022/01/19
本詠み人
78
子どものころ潜り込んで遊んでいたクローゼット。狭いはずのそこは空想の力で果てしない広がりのある魅惑の世界だったのに…千早茜さんの作品は4作目だが、どの作品にも傷を負い生きづらさを抱えた主人公が出てくる。今作は18世紀〜の洋服を収蔵する服飾美術館が舞台。そこで働く補修士の纏子と、洋服の好きなデパート店員・芳(かおる)の物語。誰もが多かれ少なかれ心に何かを抱えて生きている。強そうな晶もアフロ高木も私も。完璧な解決ではないけれど、こんな風に自分の弱さと共に生きていけば良いんだ…と思えた。やはり千早作品は特別だ✨2022/01/03
masa
76
【クローゼット】には"洋服を仕舞う場所"だけでなく"セクシュアリティを公にしていない人や状態の暗喩"の意味がある。それはつまり本当の自分に似合うものだけを大切に閉じ込めた空間。生きていく中で誰かの残酷な出来心により自分らしさをどうしようもなく損なわれてしまうことがある。失われてしまうことがある。でも思い出して。あなたは着せ替えのマリオネットじゃない。その糸を切ってもいいんだよ。扉を開く鍵は物語という名のクローゼットで見つかるだろう。あなたの選んだものを身に着けて、ひとつひとつ尊厳を取り戻して、笑ってくれ。2021/01/16
佐島楓
73
おそらく読み手によって大きく着眼点が異なる小説。もっと書いてほしいと思うところもあるが、それは登場人物に想像する余地があるということでもある。2021/01/18
kyokyokyo3201
69
服飾品を時代と人の歴史として残す美術館に心奪われた。登場人物たちが抱えるトラウマはそれぞれであるが、それを含んで今があることを少しづつ納得していく様が心地よい。モデルとなったKICのInstagramを見る。素晴らしく繊細で美しい。2021/01/17