内容説明
足軽の娘・菊子は、十四歳で大店に奉公に出されるが、その実、主人の妾として売られたのだった。彼女は絶望し死を覚悟するが、若旦那・富治が父を殺す場に居合わせたため、二人で出奔する破目に―。関宿、深川、行徳…かりそめの夫婦として、菊子は真摯に生きた。富治の不実に堪えて。だが、一度狂った運命には逆らえず、流浪の果てに二人は銚子へ流れ着く。著者の真骨頂、感動の時代長篇。
著者等紹介
乙川優三郎[オトカワユウザブロウ]
1953(昭和28)年、東京生れ。千葉県立国府台高校卒。専門学校を経て、国内外のホテルに勤務。’96(平成8)年に『薮燕』でオール讀物新人賞、’97年に『霧の橋』で時代小説大賞、2001年に『五年の梅』で山本周五郎賞、’02年に『生きる』で直木賞、’04年に『武家用心集』で中山義秀文学賞をそれぞれ受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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じいじ
79
乙川小説の19作目、ベスト3に入る力作です。足軽の次女に生まれた菊子の幼少の頃は、蛇も素手で掴む気丈夫で男勝りの娘でした。まさに、この波乱に満ちた女の人生物語は、乙川さんが主人公に全精力をつぎ込んで書き上げた力作です。さて、その菊子は、幼なじみの静次郎・恒吉との恋は実らずに終わります。所帯をもったのは富治。しかし、私にはかりそめの恋としか思えない二人の逃避行は、深川、行徳…と点々と続きます。ついに金に執着する富治の人生に悲しい運命が…。遺された菊子には計り知れない「女の強さ」を感じました。凄い小説です。2024/11/07
練りようかん
15
十四歳で一生奉公を言い渡された主人公。謎のお客様扱いで嫌なことが重なり気が滅入った。予想通りの仕打ち、その後起こったことに唖然としすっかりのめり込んでいた。行きがかり上夫婦にはなったけれど、労り合うでなく心通わせるでもなく運を下げるだけの関係。江戸深川から行徳へ、銚子が最果ての地に思える生き方。なぜ二人が二人でいようとするのがわからなくて、わかるために必死でページを捲った。桑、水、染めや土地の食べ物。描写の素晴らしさは終盤際立ち圧巻。読後人物の真の心情が脳内で渦巻いた。道行・心中物だったのか。深い。2024/09/11
ココ
14
父親そして夫と、流さされるまま生きてきた主人公の菊子。その一人の女性の機微が、丁寧に力強く描かれていく。ラスト、一歩踏み出したはずの女がとった行動は‥女の強さなのか弱さなのか・それを超えた情愛か。余韻が強く残る一冊となった。2024/11/25
ウメ
7
流されるままに他人任せで生きてきた娘が、自分の足で歩き出す女性となるまで。裏切り続けた人生にこれでいいのかと自問自答を繰り返しながらも、ようやく踏み出した一歩。どんな回り道でもいいから、自分の描く幸せに近付く人生を。2021/10/31
MIKETOM
6
読後の感想が複雑な作品。菊子本人は誠実、真面目、働き者、優しい心の持ち主といった地味ながら人格者。しかしその亭主がどうしようもないクズヘタレなダメンズ。結果、菊子の素晴らしい人間性がクズヘタレによってブラックホールに吸い込まれていくように無限に消費されていく。菊子の一生懸命の尻拭いが周囲に迷惑をかける。恩も義理もある人たちを裏切ることになってしまう。読者はクズヘタレに嫌悪感を抱くが、菊子に対してもいい加減バカじゃね~のって気持ちになってしまう。そしてラスト。クズヘタレはクズヘタレのままでいさせろよと2018/08/20