出版社内容情報
個性を殺さず癖を生かす。人も木も、育て方、生かし方は同じだ。
法隆寺を1300年守ってきたのは、職人の手から手へと引き継がれてきた技と知恵。それは決して言葉にできない手の記憶である。“最後の宮大工”西岡常一が木と人の育て方を語る〈天〉の巻。三度追い返されながらも遂に西岡の唯一の内弟子となり、夢を実現させた小川三夫が、宮大工の未来を語る〈地〉の巻。さらに小川が主宰する鵤工舎の若者19人へのインタビュー〈人〉の巻。聞き書きの名作。
1 ~ 2件/全2件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
翔亀
57
法隆寺の西岡棟梁(天)、唯一の内弟子で鵤工舎を設立した小川三夫(地)、鵤工舎の若者たち(人)の三冊の合本。三世代の宮大工の技の伝承が立体的にみえてくる。個々の感想は各本ごとに記したので、ここでは聞き書きをした塩野米松さんについて。元々小説家で芥川賞候補4回。最近は伝統的技能の聞き書きに専念しているようだ。小川さんは、研究会とか講演とか一切断っているそうで、これを文字に残してくれたことに感謝するばかりだ。作品に作家は顔を出さないが、口述筆記と違い、確実に作家の個性が<編集>に表れている。自己表現の一つの形。2014/11/10
ころりんぱ
54
法隆寺、高校の修学旅行で行きました。1300年前に建てられた日本最古の木造建築。確かに荘厳な美しさに感激しましたけど、この本を読んで、本当のところ何にも感じていなかったんだなぁと、あの時の自分を残念に思いました。法隆寺最後の棟梁 西岡常一と弟子の小川三夫、そして鵤工舎の孫弟子たち。宮大工の世界を初めて知って、職人魂と人育てをいろいろな角度から読むことができ面白かったです。ちなみに小川さんが高校の修学旅行で法隆寺を見学の際、こんな建物を自分も作りたいと思って宮大工の道に進んだというのが衝撃。コメントへ続く2015/06/03
Miyoshi Hirotaka
51
読書中の姿勢が正される本がある。本書の「天」の章、旧題「木に生きる」がそうだ。十数年毎に再読してきた。今回は何度も天を仰いだ。過去の手抜きが容赦なく想起されたからだ。樹齢千年の木を使い、用材としても同じだけの寿命になるように使い方を工夫する。この努力の積み重ねが千三百年前の木造建築を現代に伝えている。真摯に生きる、公の精神を持つことをこれほど明確に示してくれる本はない。また、この本は大工の三世代記。伝統技術が各時代の精神や技術の影響を受け少しずつ変化しても、本質は変わらずに継承されていく様子が読み取れる。2023/12/12
アナクマ
49
「自然石の上に立てられた柱の底は方向はまちまちです。それぞれの違った遊びのある動きが地震の揺れを吸収するんですわ」法隆寺1300年の歴史が証明していること。◉「古材は触ると温かい気がしますな」科学的にありえぬと思えど、時を経てわがままな癖の消えた材を細工物に再生する職人の観察と技術を読めば、それは「木のいのち・こころ」を感知しているからこそと知れる。一事が万事で、傾聴に値すること多々。◉TEDでなくても聞き書きはこんなにも息使いを再現できる。塩野の上質な仕事にもまた感謝。ゆっくり読み継ぎたい。2019/07/14
akio
48
幸田文の「木」は私にとって特別な一冊です。特に材としての生と宮大工の話が印象深いわけで。本書も大切な一冊になりそうです。きっと色んな見方や意見があると思うのですが、匠の技を極めるからにはその世界のやり方というのがあって、徒弟制度はその欠かせない一部なのだと思います。伝説の宮大工から弟子へ、孫弟子へと連なる想い。それぞれの木の扱い、人への接し方が大変味わい深く、日常におわれてしまう私のような者にははっとするような金言がたくさんちりばめられていました。2018/01/10