内容説明
ぼくはあなたの声を聴いて自分が男だってことが恥しくなりました―。女性の子宮の中を泳ぐ精子のような気分をなんとか様式美のなかに収めたい…この野心のもとに生まれた、表題作「ドンナ・アンナ」他、「観光客」「聖アカヒト伝」「ある解剖学者の話」の四つの短編を収録。独自の言語感覚で、常に新しい小説世界を構築している著者が描く、マニエリスティックな愛の物語。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
メタボン
28
☆☆☆☆★ 「ドンナ・アンナ」は初期島田作品の傑作だと思う。斜に構えた文体は相変わらずだが、少しセンチメンタルな気分が漂う独特な雰囲気が良い。北朝鮮の独裁者を思わせる「聖アカヒト伝」のディストピアワールドも力作。「観光客」「ある解剖学者の話」は文体は面白いが、全2作に比べるとストーリーらしきものがあまりなく小粒の印象だったものの、短編集として十分に楽しめる作品だった。2016/09/08
どぶねずみ
22
初読みの作家さんで、何とも個性の強い描写、昭和の恋愛模様かと思えるような短編集だった。『聖アカヒト伝』は若干ファンタジーの要素も含んでいるようなありえない国家までできたが、それも子どもを溺愛するあまり甘やかしすぎるとその子どもは最悪どうなってしまうのかをくっきりと描き出しているところが、とても気持ち悪い。他の作品はずっと恋愛に酔っているような感じ、あまり好みでなかった。2021/11/30
501
13
初期の4編の短編集。後書きによるとこれらの作品は以後の作品のベースとなっているようなので、作者のひとつの出発点となっている短篇集なのだろうか。2015/03/25
おとん707
7
表題作と「観光客」「聖アカヒト伝」「ある解剖学者の話」を収録。実は今期の芥川賞受賞の遠野遙作「破局」を読んで芥川賞選考委員でもある島田雅彦が好きそうな作品だと直感し、改めて本書を読んでみた。そして私の勘はある程度当たっていると思った。島田は「破局」を評して「読者の読みようによっては不愉快極まりない作品」と言っているが勿論これは誉め言葉であろう。そして私はそれと同じものを本書収録の作品に感じる。このカオスの世界を受け入れられるかどうかで好き嫌いが分かれると思うが、私は面白いとは思うがハマりはしなかった。2020/10/04
味読太郎
7
ハッピィ・プリンスは何かに、他者の身体の中にしか自分を見出せない。認識できない。そして彼自身はなにか別の物になりたく、土木作業員にも天使にもなろうとした。アンナはそんなハッピィ・プリンスに惹かれた。他者の中に、自意識という考えは「僕は模造人間」からも踏襲していると考えられる。短く濃厚なように思えるが、感想を書こうとすると本作も何も上手く書き表せれない、、。儚い。2014/09/18