内容説明
思いやりの深かった妻が、夫の「情事」のために突然神経に異常を来たした。狂気のとりことなって憑かれたように夫の過去をあばきたてる妻、ひたすら詫び、許しを求める夫。日常の平穏な刻は止まり、現実は砕け散る。狂乱の果てに妻はどこへ行くのか?―ぎりぎりまで追いつめられた夫と妻の姿を生々しく描き、夫婦の絆とは何か、愛とは何かを底の底まで見据えた凄絶な人間記録。
著者等紹介
島尾敏雄[シマオトシオ]
1917‐1986。横浜生れ。九大卒。1944年、第18震洋隊(特攻隊)の指揮官として奄美群島加計呂麻島に赴く。’45年8月13日に発動命令が下るが、発進命令がないままに15日の敗戦を迎える。’48年、『単独旅行者』を刊行し、新進作家として注目を集める。以後、私小説的方法によりながらも日本的リアリズムを超えた独自の作風を示す多くの名作を発表。代表作に『死の棘』(日本文学大賞・読売文学賞・芸術選奨)、『魚雷艇学生』(野間文芸賞・川端康成文学賞)など
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感想・レビュー
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遥かなる想い
322
夫の情事をきっかけに 精神のバランスを 崩していく妻との日々を丹念に描く。 壊れた妻の振る舞いがさすがに怖い.. 物語の大部分が 壊れた妻との会話から 構成されている この物語、正直読むのが 辛い。病的な妻との修羅場..これを描き切った 著者の心中を思うと 心に痛い闘いの物語であった。2017/01/28
藤月はな(灯れ松明の火)
111
『101回目のプロポーズ』とか『東京ラヴストーリー』の恋愛至上主義に憧れて結婚したけど、家庭内は些細なことで激高や諍いが起き、なのに別れない親を見て家族への不信感が募る中、育った世代にとっては「ハア?(怒)」という感想しか湧かない本じゃないでしょうか?妻を侮っていたからこそ、浮気相手との情事を書いた日記を妻の目の届くところに置き、責め立てる妻に対し、自殺アピール、自分の家庭の事情を恥知らずにも飯の種にする作者はどうかしている。だが、周囲や親族に自分の苦境も知らせずに幸せな家庭像を演出するミホも大概だと思う2017/06/08
nakanaka
95
島尾敏雄氏の私小説である「死の棘」。トシオの浮気によって精神が病んでしまう妻・ミホ。夫婦の不倫や浮気を題材にした作品は多々ありますが情人との関係が終わってからの夫婦の話はあまり無いような気がします。かなり異質な作品でした。精神に異常をきたしたミホの浮き沈みが延々と続きます。しかしながらそこには夫婦生活の真の姿があるように感じられ飽くことなく読み進められました。精神が病んでしまったとはいえ両親に振り回される幼い子供たちが不憫でなりません。面白い小説といえるかは分かりませんがとても印象に残る作品でした。2016/03/29
中玉ケビン砂糖
93
、「島尾敏雄」と聞いただけで、「はぁ……」と思わずため息をつかせるような、おだやかでない影が心に忍び寄ってくるのを感じる、第三の新人でもある、彼の代表作であるこれを思い浮かべてしまうからだ、佐藤友哉『1000の小説とバックベアード』の印象的な場面、主人公が会社面接の際に「いちばん嫌いな本は『死の棘』です。結婚したくなくなるからです」と言わせるほどに、2014/12/17
ゆかーん
78
疲れました…。こんなに精神力を必要とした読書はなかなか無いと思います。夫の浮気が許せず突然神経に異常を来した妻ミホ。浮気相手と別れても信用してもらえず、泣き、喚き、高笑いを繰り返す妻に、夫のトシオはオロオロしてばかり…。子供たちも「カテイノジジョウ」と言い、精神不安に陥る始末です 。「自殺」「離婚」と言葉を繰り返し、顔を踏みつけられ、平手打ちされても、結局涙を流し許しを請う姿は、一体何がしたいのか皆目分かりません…。優柔不断な夫と精神病の妻、解決の糸口が見えない言い争いに、私の心は擦り切れてばかりでした。2017/06/06