内容説明
香具師の元締・羽沢の嘉兵衛、腕利きの殺し屋・岩淵の又蔵、殺しの現場を見た小女おみよ、白痴だが働き者の平次郎。彼らは確かにそこにいたのだ江戸の街の深く黒い闇の中に。身をつめ、身を震わせ、喘ぎ、時には己れの策謀にまんじりともせず酔いしれながら―運・不運にもまれつつ、与えられた人生を生ききる男たち女たちを濃やかに描いた、「仕掛人・藤枝梅安」の先駆をなす8つの短編。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
とん大西
128
ド直球なタイトルから、まがまがしいアウトレイジな世界観を予想していましたが、意外にもほろ苦エンタメの読み心地(ホッ)。追う者と追われる者、男と女、仕留めた奴仕留められた奴…。尋常な日々はもはや忘却の彼岸。ダークサイドで日々を送る彼らの様は、ややもすれば滑稽なほど哀愁が色濃く漂う。人生の妙-淡々とさりげなく筆に託すあたりはさすが池波正太郎か。ヤクザの跡目争いと逆玉の顛末を描く「女毒」は人間万事塞翁が馬の小粋ニクさ。憐れなのか何なのか奴らの行く末…「殺」が描く頼りない人情慕情。正に人生の妙か。2021/01/17
じいじ
85
ワクワクしてくるタイトルに誘われての8短篇は、それぞれに艶っぽい女も絡んで、とても面白かった。私のお気に入りは、女の恨みは想像以上だった【女毒】。香具師の頭の濃艶な一人娘が選んだ婿は、父親の片腕として働く男ではなく、年下の伊三次。その伊三次が結婚を心に決めたやさき、偶然にも女の本心を、汁粉屋のとなり部屋で訊いてしまいます。それに嫌気がさして逃走…、この結末はご自身でお楽しみください。江戸の裏街道の「男と女」を描いた池波さんの8話は、読者を飽きさせませんよ。2023/05/10
kinkin
75
8編の短編で構成される。解説に「江戸のハードボイルド」とも書いてあったが、内容は硬派だけでなく男と女、不思議な出会いや偶然がもたらすドラマがそれぞれの話に織り込まれていて楽しめた。池波作品は、なんといっても鬼平や剣客シリーズが有名で人気作品だ。当然それらも好きだが本書もかなりいいと思う。「白痴」のプロットがとても面白いと思った。時代小説の楽しさを発見。2016/03/08
ポチ
67
江戸の闇を支配する者達の8話の短編。当然悪い奴等の話しだから後味が悪くなりそうだが、読後感は悪くない。むしろサバサバした感じで面白く読めた。2019/06/18
sin
65
TVでお馴染みになった江戸の殺し屋は「世のため人のためにならない者」を始末するとかなんとか、人殺しが御為ごかしな言い訳を背負って正当化するのはどうかと思うが、原作は違ってあくまで人間の物語だ。根っからの悪人はいないが同じく善人もいない。環境に左右される者もされない者もいる。因縁めいた話も本人達が気付かなければそれまでだが読み手には人生の深さを感じさせる。2020/06/29