内容説明
平凡な人妻、女子高生、デパートの女店員など、手当たり次第に女性を襲い続ける男、宇野富士男。彼の衝動はとどまるところを知らず、生意気だというだけの理由で小学生の男児までも手にかけてしまう。やがて富士男は逮捕され、社会を大きく揺るがす事件の全貌が明らかになった。だが雪子は、周囲の非難を浴びながら、富士男のために弁護士を雇うのだった…。著者初の長編犯罪小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ばななな
11
続き 女子供を殺すようなやつだから悪いのではなく、殺人やレイプが悪いことなのだと、漠然と感じた。 そして自分が犯した罪ではなく、罪を犯した自分を見つめること。 人が犯した罪ではなく、罪を犯した人間を知ることを、作者は説いている気がする。 その道の果てしなさと困難に、そっと葵空を見上げたくなる。2019/09/12
アーチャー
10
読んでる間ずっと心に重いものがのしかかった作品で、読了後しばらくは他の小説を読めなくなったのを覚えている。そんな衝撃を受けた作品だが、改めて読み直そうという勇気はまだ私の中には芽生えていません。
うのきち
10
「俺が自分でも不思議だと思うのは、俺が手をかけた連中のことを思い出しても、あまり気の毒だと思えないことだ。正直に言うよ。どうしたら、悪いと思えるかな。教えてくれ」「あなたが何も感じないとしたら、それはあなたの責任ではないのかもしれません。こんなことを言ったら、世間の人は怒り狂うでしょう。結果的には六人も殺した『殺人鬼』に責任がないとは何ということを言うのか、と。でも、その能力のない人に、それを感じなさい、というのはむずかしいことです」。富士男は愛のある女性に生まれて初めて出会い心の拠り所を得るが、2011/03/07
Yumi Ozaki
9
自分の犯した罪を悔いることもないような男にも人間愛を注げる人がいるものなんですね。雪子さんだけがこの世の光だったことでしょう。2022/07/25
ばななな
9
殺人を繰り返す富士男の、身勝手な心情や苛立ち、弱さ、少しほっこりする人との交流、どれもリアリティーがあった。 殺人を犯すか、犯さないかの境界線は、そこにはなかった。あったのどろうが、そこを、あっさりと跨ぎ越えて、気が向いたときに戻ったりする。 まるで、夕食のつまみ食いでもするくらいの気安さで。 その事に、怒りや怖さを感じなかった。 少し悲しいが「そんなことも、あるだろうな」と言う諦めのような気持ち。 2019/09/11